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いわゆる「難治性白内障」とはどのような状態ですか

[2024.06.18]
白内障手術と一口に言っても、その難易度は眼の状態によって大きく異なります。治療するために難しい手術が必要ないわゆる「難治性白内障」とはどのような状態か、いくつかのパターンを解説します。
 
1. 著しく白内障が進行した状態
白内障は眼の中のレンズ(水晶体)が混濁してしまうことによって、眼の奥に光が入りにくくなってしまう病気です。白内障の進行に伴って視力も低下していきますが、同時に水晶体が硬くなります。水晶体が硬くなると、手術で水晶体を砕く処理に手間がかかってしまいます。また、この処理の際に超音波を使用するのですが、超音波の使用量が増加するために角膜などの組織に対する負担も大きくなります。さらに、白内障があまりに進行してしまった場合には超音波で水晶体を処理することができなくなるため、眼を大きく切開して濁った水晶体を丸ごと取り出す水晶体嚢外摘出術(ECCE)が必要になります。
このことから、白内障は進みすぎてしまう前にほどほどのところで治療した方が、安全かつ負担の少ない手術が受けられるということがわかります。
 

白内障は混濁が進むにつれて、水晶体の色が黄色から茶色へと変化していきます。特に茶色の混濁を生じている場合には、水晶体は非常に硬い状態になっています。

 

  1. チン氏帯が脆弱である状態
水晶体は眼内でひものような組織に支えられており、この組織をチン氏帯といいます。チン氏帯は様々な理由で脆弱になり、時に断裂してしまいますが、この脆弱なチン氏帯を伴う白内障は一般的に手術が難しいとされています。例えるならば揺れている机の上で料理をするようなもので、水晶体の処理が難しい場合があります。広範囲のチン氏帯断裂などチン氏帯脆弱が高度な場合予定の位置(水晶体嚢内)に眼内レンズを固定できず、眼の奥の手術である硝子体手術を行った上で眼内にレンズを縫い付ける手術が必要になることもあります。
チン氏帯が脆弱になる原因としては、落屑症候群、加齢、強度近視、ぶどう膜炎、外傷などが挙げられます。
 

上の写真は落屑症候群ですが、瞳孔縁や水晶体の表面に落屑物質が沈着しています。

 

  1. 瞳孔の開きが悪い状態(散瞳不良)
水晶体は瞳孔の奥に位置しているため、白内障手術の際には点眼薬を使用して瞳孔を開く(これを散瞳といいます)必要があります。点眼薬を使用しても瞳孔が十分に開かない場合があり、瞳孔が開かないと水晶体の操作が難しくなります。この瞳孔の開きが悪い状態を散瞳不良といい、散瞳不良の原因としては、糖尿病落屑症候群術中虹彩緊張低下症候群(IFIS)などが挙げられます。
 
  1. 術中虹彩緊張低下症候群(IFIS idiopathic floppy iris syndrome)
術中虹彩緊張低下症候群(IFIS)とは、虹彩のハリがなくなってペラペラになってしまい、手術中に虹彩が傷口から眼外へ脱出してしまったり、前述の散瞳不良の原因にもなる症候群です。術中虹彩緊張低下症候群は特定の薬剤を内服している患者さんに起こりやすく、前立腺肥大の薬(α遮断薬:シロドシン(ユリーフ)、ナフトピジル(フリバス)、タムスロシン(ハルナール)など)を内服している方の手術を行う際には注意が必要です。リスペリドンなどの抗精神病薬を内服している場合にもIFISを発症することがあります。
 
  1. 前房が浅い(隅角が狭い)状態
眼内において、水晶体の前方の空間を前房といいます。前房が浅い状態浅前房狭隅角)では手術を行うためのスペースが狭くなり、操作の難易度が上がります。
 
  1. 角膜混濁の状態
角膜(黒目)に濁りがあると、眼内を観察するのが困難になるため、手術操作の難易度が上がります。眼内の組織を見やすくする染色剤を使用したり、混濁がひどい場合には硝子体腔(眼の奥)に照明を入れて後ろから照らすことで手術が可能になることもあります。眼の奥に照明を入れる操作は硝子体手術を執刀できる医師でないと難しく、進行した角膜混濁を有する眼の白内障手術は治療可能な施設が限られます。
 

角膜に混濁を生じる疾患には、以下の写真のような角膜帯状変性や角膜ジストロフィなどがあります。

 

 
  1. 角膜内皮細胞が減少した状態
角膜の内側に存在する角膜内皮細胞は一度減ってしまうと増えないので、角膜内皮細胞が減少した状態の眼では、角膜内皮細胞を減らさないような操作を行う必要があるため、手術の難易度が上がります。白内障手術により角膜内皮細胞が減少してしまうことがありますが、角膜内皮細胞が減りすぎてしまうと水疱性角膜症を発症し、角膜が濁って視力が低下するだけでなく、時に激しい痛みを伴います。
 
  1. 認知機能が著しく低下している状態
手術中には横になって明るい光の方をみていただく必要がありますが、進行した認知症などにより手術にご協力いただけない場合、手術が困難になる場合があります。キョロキョロ眼が動く程度であればこちらで眼の動きを制御しながらなんとか手術を行うことができますが、横になっていられないなどの場合はそもそも手術をすることができない場合があります。
 
医学の進歩により、白内障手術は安全に行えるようになってはいるものの、白内障の状態は患者様によって千差万別です。特に進行した白内障などは治療できる医療機関が限られるのが現状です。
当院では、白内障手術および硝子体手術に精通した院長が手術を行っておりますので、他院で治療が難しいと言われた患者様もご相談ください。
 

記事監修 眼科医  渡辺 貴士

日本眼科学会認定 眼科専門医
東京医科歯科大学眼科 非常勤講師

大学病院や数々の基幹病院において第一線で多数の手術を行ってきました。特に白内障手術と網膜硝子体手術を得意としています。現在も東京医科歯科大学の非常勤講師を兼任しており、大学病院での手術指導および執刀を続けています。

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