多焦点眼内レンズの手術費用は安いほど良いか
[2024.10.04]
多焦点眼内レンズを使用した白内障手術は選定療養もしくは自費診療で行われるため、手術費用は医療機関によって異なります。医療機関によっては、経費削減を徹底して、なるべく手術費用を安価に設定してたくさんの患者さんに受診してもらおうという経営努力を行う医療機関もあれば、人件費や設備への投資を惜しみなく行い、患者さん一人一人への説明にきちんと時間をかけ、そのかわりある程度の費用を負担していただくという医療機関もあり、経営方針は千差万別です。その中で重要なのが、「同じレンズを使用したらどこで手術をしても結果が同じになるわけではない」ということです。
ここでは多焦点眼内レンズを使用した白内障手術にまつわる、お金の話について掘り下げてみたいと思います。まず医療機関が手術のために負担するコストのうち、術後の仕上がりに大きく関わる要素として、人件費と設備費用があります。
人件費については、国家資格者である視能訓練士をどれだけ採用しているかによって大きく異なります。医院によっては、検査を行うスタッフは全員視能訓練士であるという施設もありますが、視能訓練士だけで検査スタッフを揃えることは経営的に難しいため、無資格者が検査を行うクリニックも多いのが現状です。視能訓練士による精密な検査は最適な眼内レンズ度数の決定に不可欠であり、術前と術後に行う視力検査をはじめとする各種検査についても、本来であれば視能訓練士によって行われることが望ましいです。
白内障手術に関連する設備としては、眼内レンズ度数を決定するための検査機器や白内障手術機器、手術用顕微鏡などがありますが、それぞれ機種によって性能に差があります。これらの機器にはグレードがあることが多く、上位グレードにはさまざまな機能が付与されています。例えば、手術顕微鏡に付帯するシステムであるCALLISTOは、これを利用することで手術中の顕微鏡映像に乱視軸を投影することができ、精密な乱視矯正が可能になります。性能が高い機器はその分高価であるため、手術の正確性や安全性は高まる一方で、医療機関の金銭的な負担は増加します。さらに、万一の合併症の際に硝子体手術を行える環境を整備する場合、それだけで莫大な設備投資が必要になります。医療機関によってどの程度設備が充実しているかは様々であり、それは手術の仕上がりに影響しうるのです。
上記の通り、同じレンズを使用して白内障手術を行う上でも、施設によって体制が大きく異なることがお分かりいただけると思います。しかしながら、多焦点眼内レンズを使用した白内障手術を受ける上で最も重要なのは医療スタッフの能力ではなく、検査機器や手術機器の質でもありません。当たり前ですが、一番大事なのは手術を担当する医師が誰かということです。
白内障手術は洋服やカバンとは異なり、どこで買っても一緒ではありません。同じレンズを入れたとしても、執刀する医師が異なれば仕上がりも異なるのです。同じ産地のダイヤモンドでも、カットなどの加工をする宝石屋さんが変われば全く価値が違う商品になるのと似た話です。ではどのような医師に手術をしてもらうと良いのでしょうか。有名な大学を卒業していたり、仰々しい肩書きがあったり、論文をたくさん書いていたり、賞をたくさん受賞している医師が手術が上手かというと、そういうわけではありません。論文や学会発表は医学の進歩には欠かせないものですが、研究が得意な医師が手術が上手とは限らないことは想像するに難くないと思います。(そもそも「上手な手術とは何か」ということについてはこちら、そして「手術が上手なのはどのような医師か」ということについてはこちらをご覧ください。)
さらに言うと、白内障手術が上手なだけでは不十分であり、多焦点眼内レンズに関する深い知識が必要になります。実は、白内障手術を手がける医師の中でも多焦点眼内レンズについて詳しい医師は多くありません。多焦点眼内レンズの診療に関わる医師は、レンズの種類にまつわる基本的な知識はもちろんのこと、それぞれのレンズが持つ特性と患者さんの状態を考慮して最適なレンズを提案できる能力を兼ね備える必要があります。手術件数が多い施設の中にはレンズの選択をスタッフに任せるような医師もいるようですが、少なくとも多焦点眼内レンズに関しては、十分な知識を持った医師が、患者さんのお話をよく聞いた上で行う必要があると考えています。
最後に、当院はどうなのかということについてお話しします。
当院は「手術において、術後の仕上がりを良くするためにできることはすべてやる」という方針で運営しています。当院では一般的な大学病院の手術件数を超えるほど多くの手術を行っていますが、ただ手術件数を増やせばよいという考えは一切ありません。「患者さんのために最善を尽くし、最良の結果を追求する」ということに徹底的にこだわっています。
スタッフについても、当院の検査スタッフは全員視能訓練士の国家資格保有者であり、すべて常勤職員です。当院ほど多くの常勤視能訓練士を擁する施設は基幹病院を含めても多くはありません。またこれは余談ですが、当院は職種を問わず職員の待遇面において充実しており、これにより優秀な人材を確保することができています。優秀な国家資格保有者が検査を行うことにより、検査の正確性がより一層担保されるのです。
また、設備についても常にアップデートするようにしており、「科学的根拠に基づき」現状考えうる最も良い手術ができるような設備を導入しています。上記のCALLISTOについても当然ながら当院では使用可能です。一方で、フェムトセカンドレーザー(レーザー白内障手術に使用する機械)などの、メリットが科学的に示されていない機械については敢えて導入せずに、患者さんにとって本当に良い手術のみを行うよう心がけています。
診療を担当する医師ですが、当院では院長が全ての内眼手術(白内障手術および網膜硝子体手術)を行うことで、手術の質を担保しています。眼内レンズの選択に際しても医師が十分な時間をかけてレンズの種類や特徴を説明しており、患者さんの希望に応じて最適なレンズをご提案するようにしています。
費用については、他院と比較して決して低廉ではありません。前述の通り、ただたくさんの手術を行うということではなく、患者さんひとりひとりにじっくり向き合い、全ての手術で最良の結果を追求することに重点を置いています。
多焦点眼内レンズはファッションアイテムや雑貨とは異なり、どこで買っても同じではありません。価格だけで決めずにあらゆる側面から検討され、自身に合った医療機関がどこなのか、慎重に判断されることをおすすめします。
記事監修者について
眼科医 渡辺 貴士
日本眼科学会認定 眼科専門医
東京科学大学眼科 非常勤講師
大学病院や基幹病院において多数の手術を行ってきました。特に白内障手術と網膜硝子体手術を得意としています。現在も東京科学大学の非常勤講師を兼任しており、大学病院での手術指導および執刀を続けています。