おすすめの多焦点眼内レンズ 2025年の最新情報
[2025.01.21]
白内障手術の際に多焦点眼内レンズを挿入することで、手元も遠くも裸眼で見えるようになり、眼鏡に頼らない生活を目指すことができます。当院は多焦点眼内レンズを使用した白内障手術を希望して遠方より来院される患者さんも多く、他県や時には海外から来院される方もいらっしゃいます。このため、当院で白内障手術を受けられる方のうちおおよそ5人に1人の方が多焦点眼内レンズを選択されています。
視神経や網膜に病気があったり、角膜の形態が不整であるなどの理由で使用できるレンズの種類が限られてしまう方もおられますが、眼の状態やライフスタイルが合っていれば、多焦点眼内レンズは非常に優れた選択肢であると言えます。
一方で、多焦点眼内レンズは種類が非常に多く、どのレンズが良いのか迷われることと思います。白内障手術を手がける眼科医ですら、多焦点眼内レンズに精通している医師は多くないのが実情です。ランキングのような分かりやすい表を作れれば良いのですが、最適な眼内レンズは一人一人異なるため、レンズを決定するためには深い知識と十分な経験が必要になるのです。適切な眼内レンズの選び方が分からない方のために、この記事では「分かりやすさ」に重点を置いておすすめの多焦点眼内レンズをご紹介します。
まず、多焦点眼内レンズには大きく分けて国内承認レンズと国内未承認レンズの2種類があり、国内承認レンズには選定療養という制度を使えるため、費用負担を抑えることができます。一方で、国内未承認レンズは全額自費診療になるため、費用が高額になります。選定療養対象の国内承認レンズはコストパフォーマンスが良く、一部の高性能なレンズは自費診療のため高額になるというかたちです。
さらに、選定療養でも自費診療でも、回折型と焦点深度拡張型(EDOF)の2種類からレンズの種類を選択します。回折型のレンズは遠くから近くまでピントが合いやすいですが、ハロー・グレアと言われるような光がギラギラ見える症状が出たり、色の鮮明さ(コントラスト感度)が劣る場合があります。焦点深度拡張型(EDOF)のレンズはハロー・グレアや、コントラスト感度の低下といった症状がほぼないかわりに、近方の見え方がやや弱く、手元の細かい字などを見るときに老眼鏡が必要になることがあります。
これまでの話をまとめると、まずは費用面で選定療養か自費診療か、さらにその中で希望の見え方の質から回折型か焦点深度拡張型(EDOF)かを選ぶ必要があるということになります。
その上でここからは、具体的にどのレンズを選ぶと良いかをご紹介します。
選定療養対象の国内承認レンズ
・回折型多焦点眼内レンズ
さまざまなレンズが発売されていますが、当院ではテクニスオデッセイ(TECNIS Odyssey)、テクニスシナジー(TECNIS Synergy)、クラレオンパンオプティクス(Clareon PanOptix)のいずれかを選択します。
分かりやすさを優先して誤解を恐れずに言えば、これら三者のどれを選択しても、すごく大きな差は無いと思います。厳密には、近方の見え方の質はテクニスシナジーが優れており、ハロー・グレアやコントラスト感度低下などの不快な症状が少ないのはテクニスオデッセイもしくはクラレオンパンオプティクスであると言えるでしょう。
このような中で、現状バランスが良いのはテクニスオデッセイではないかと思います。
回折型多焦点眼内レンズでは構造上必ず光のロス(損失)が生じてしまい、このことがコントラスト感度の低下などにつながります。クラレオンパンオプティクスでは12%、ファインビジョンHP(選定療養、回折型)では14%のロスが起こり、テクニスシナジー、テクニスオデッセイについては公表されていません。
テクニスオデッセイ、テクニスシナジーとパンオプティクスにはすべて乱視矯正レンズ(toricレンズ)が設定されているため、一定の角膜乱視がある場合には矯正可能です。
・焦点深度拡張型多焦点眼内レンズ
クラレオンビビティ(Clareon Vivity)という多焦点眼内レンズを選択します。
これは遠方から中間(50cm程度)まで見える構造のレンズで、コントラスト感度の低下や、ハロー・グレアがきわめて少ないため網膜や視神経に病気がある方にも使える特徴がありますが、50cmより手元が見えにくいという弱点があります。乱視矯正レンズの販売はありません。
「多焦点眼内レンズ特有のハロー・グレアや、コントラスト感度の低下は嫌だけど、一方で単焦点レンズもピントが一点にしか合わないのは不便で嫌だ」という方には非常に良い選択肢であると考えられます。
また、ジョンソンエンドジョンソン(AMO)社よりテクニスピュアシー(TECNIS PureSee)という新しいレンズが2025年中に日本でも使用可能になる見込みであり、すでに発売されているヨーロッパでは非常に評判が良いようです。
テクニスピュアシーはクラレオンビビティと同様に遠方から中間まで見える構造の焦点深度拡張型レンズで、コントラスト感度の低下がほぼなく、ハロー・グレアも極めて少ないため単焦点レンズに匹敵する見え方の質を期待できます。乱視矯正レンズも販売される予定です。
自費診療の国内未承認レンズ
・回折型多焦点眼内レンズ
5焦点レンズであるインテンシティ(Intensity)は非常に優れたレンズです。遠方から近方まで5カ所に焦点が合い、独自の構造により光のロスが6.5%と驚異的な少なさであり、選定療養対象の国内承認レンズの概ね半分程度であることから、コントラストも良好です。乱視矯正レンズも設定されているため、乱視のある方にも使用可能です。ハロー・グレアは構造上どうしても生じてしまいますが、他の回折型レンズと比較しても高度ではありません。回折型多焦点眼内レンズの中で1番良いレンズを入れて欲しいという要望にはこちらのレンズをおすすめしており、術後の満足度も非常に高いです。
・焦点深度拡張型多焦点眼内レンズ
焦点深度拡張型レンズの中で最も使用感が良いのはミニウェル(Mini WELL)であり、非常に人気があるレンズです。「先生が自分の眼に入れるならどのレンズを選びますか。」という質問を受けた時には「ミニウェルを選択する」とお答えします。優位眼(利き目)にMini WELL Readyを、非優位眼にMini WELL PROXAを挿入するWell FUSION™という方法でレンズを選択すると、手元から遠くまで、ハロー・グレアのほぼない自然な見え方が期待できます。コントラストも良好です。Mini WELL PROXAは乱視用の発売がないため、乱視の程度によっては適応にならない場合がある点に注意が必要です。両眼にMini WELL Readyを挿入すると手元の見え方がやや弱い場合がありますが、それでも手元40-45cmまでピントが合うので、手元の見え方は焦点深度拡張型レンズの中では良好といえます。
もう一つ有用なレンズとして、エボルブ(EVOLVE)が挙げられます。このレンズは完全オーダーメイドのレンズで、強度近視の方にも対応しており、乱視の度数も1度単位でオーダーできる特徴があります。強度近視や強度乱視の方は眼内レンズの製作範囲(規格)から外れてしまい、一般的な多焦点眼内レンズが使用できないことがありますが、そのような場合にもエボルブであれば使用可能です。また、見え方の特徴としてはハロー・グレアが極めて少なく、コントラストがとても良いという特徴があり、夜間の運転や、暗所での作業が多い方におすすめです。エボルブは焦点深度拡張型レンズであるため、理論上の数値ではやや手元の見え方が弱くなる特徴のあるレンズですが、理論値よりも手元の見え方の満足度が高い傾向にあるようです。
前述の通り、国内未承認レンズは非常に高性能である一方で費用が全額自費診療で高額になるのが欠点です。
当院での国内未承認レンズを使用した手術の費用は、乱視矯正の有無にかかわらず一律で片眼 80万円+税(88万円)です。
上記の費用には眼内レンズ代金、手術技術料、薬剤代金、術後3ヶ月の診療費用を含みます。
また、手術前検査の際に術前検査費用3万円+税を申し受けます。
2025年における、多焦点眼内レンズの選び方をあえて簡潔に、わかりやすさを優先してまとめてみました。
眼内レンズは原則として一生物ですから、後悔のないように最適なレンズを選びたいものですよね。多焦点眼内レンズの使用を検討されている方はお気軽にご相談くださいね。
記事監修者について
眼科医 渡辺 貴士
日本眼科学会認定 眼科専門医
東京科学大学眼科 非常勤講師
大学病院や基幹病院において多数の手術を行ってきました。特に白内障手術と網膜硝子体手術を得意としています。現在も東京科学大学の非常勤講師を兼任しており、大学病院での手術指導および執刀を続けています。