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多焦点眼内レンズのMix&Match

[2024.07.01]
左右の眼に別の種類のレンズを入れることをMix&Match(ミックスアンドマッチ)といいます。これにより、左右の眼がお互いに苦手とする部分を補完することで見え方の改善を期待するというものです。どんな場合でもMix&Matchを行っても良いわけではなく、あくまで選択肢の一つとしてお考えいただくとよいかと思いますが、経験上、Mix&Matchによる手術を行い大変満足されている方も多いため、レンズ選択の実例を挙げて解説します。
 
例えば焦点深度拡張型(EDOF)のレンズとしてクラレオンビビティ(Clareon Vivity)というレンズがありますが、このレンズはハロー・グレアやコントラスト感度低下などの不快な現象がほぼない、自然な見え方を提供する多焦点眼内レンズです。一方で、50cmより手前が見えにくいという弱点があります。この弱点を補うためにMix&Matchを行う場合があります。このとき残りの片眼に使用するレンズとして、クラレオンパンオプティクス(Clareon PanOptix)が考えられます。パンオプティクスは回折型多焦点眼内レンズに分類され、ハロー・グレアやコントラスト感度の低下などは一定程度みられるものの、遠方から近方までピントが合う3焦点レンズです。
優位眼(利き目)にビビティを、非優位眼にパンオプティクスを挿入することで、ハロー・グレアなどの不快な現象を最小限に抑えながら、手元から遠くまでピントが合う見え方を手に入れることができる場合があります。
このことを検証した論文(*)では、ビビティとパンオプティクスのミックスアンドマッチ両眼ビビティ両眼パンオプティクスの3群での視力などを比較しており、ミックスアンドマッチを行った群が最も視力が良かったという結果も報告されています。
両眼に違うレンズを入れると脳が混乱してしまうような気がしてしまいますが、人間の脳はよくできていて、両眼加算効果(Binocular Summation)といって両眼がうまく補い合ってバランスを取ることで手元も遠くもきれいに見ることができるのです。一方で、やはり左右の眼に違うレンズが入っている状態にうまく順応できない人もいるので、積極的にこの方法を推奨するということではなく、前述のようにあくまで選択肢の一つと考えています。
 
当院でも、片眼は黄斑前膜などの黄斑疾患により回折型多焦点眼内レンズが使用できない方や、片眼で先にビビティを使用してやはり手元の見え方に満足できない方に、うまく順応できないリスクをお伝えした上でビビティとパンオプティクスのMix&Matchを行っていますが、手元も遠くもよく見える一方で、ハロー・グレアはそんなに気にならない場合が多く、概ね満足度は高い印象です。
 
また、性能が高い焦点深度拡張型レンズとして知られるミニウェル(Mini WELL)については、優位眼にMini WELL Ready非優位眼にMini WELL PROXAを挿入するWell FUSION™というメーカー公認の方法が用意されており、これもMix&Matchの仕組みを利用していると考えられます。うまく順応できればハロー・グレアをほぼ感じない焦点深度拡張型レンズの利点を生かしながら、遠方から近方まできちんとピントが合う非常に便利な見え方を手に入れることができます。
 
多焦点眼内レンズの選択にはさまざまな方法があり、眼の状態や本人が希望する見え方によって最適なレンズは異なります。患者様のお話をよく伺った上で、十分な科学的根拠に基づき方針を決定する必要があると考えています。
 
* Georgios Labiris, Christos Panagist, et al. Mix-and-match vs bilateral trifocal and bilateral EDOF intraocular lens implantation: the spline curve battle J Cataract Refract Surg. 2024 Feb 1;50(2):167-173. 
 

記事監修 眼科医  渡辺 貴士

日本眼科学会認定 眼科専門医
東京医科歯科大学眼科 非常勤講師

大学病院や数々の基幹病院において第一線で多数の手術を行ってきました。特に白内障手術と網膜硝子体手術を得意としています。現在も東京医科歯科大学の非常勤講師を兼任しており、大学病院での手術指導および執刀を続けています。

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