焦点深度拡張型レンズ(EDOFレンズ)
[2024.05.15]
焦点深度拡張型レンズ(EDOFレンズ)は、多焦点眼内レンズの一種で、焦点深度を拡張することによって、遠くから中間距離までをクリアに見ることを目的としたレンズです。従来の回折型多焦点眼内レンズなどとは異なり、手元と遠くに光を割り振ることなく、波面制御技術等を採用した特殊な設計によってピントが合う範囲(焦点深度)を拡張するのが特徴です。光を割り振ることがないので、多焦点眼内レンズにもかかわらず見え方の質が良いのが特徴です。ちなみに、スマートフォンのカメラを使用する際、手元から遠くまでピントが合うのは、EDOFレンズの技術を利用しているためです。
EDOFレンズの利点として、遠方から中間距離まで連続的にきれいに見えることと、ハロー・グレアがほとんどないことが挙げられます。コントラスト感度の低下もほぼありません。このため見え方の質が非常に良いです。一般に、多焦点眼内レンズは黄斑前膜や加齢黄斑変性などの黄斑疾患や緑内障などの視神経疾患が一定以上の程度ある方には使用することができませんが、EDOFレンズであればそのような疾患があっても使用できる場合があります。
EDOFレンズの欠点として30cm程度の近距離で視力が出にくいということがあります。細かい字や小さな字を手元で見る場合には老眼鏡が必要であるとご理解いただくとよいでしょう。特にもともと近視の方で、手元が裸眼でよく見えていた方は、思ったより手元が見えないと感じる可能性があります。一方で、もともと遠視があり、老眼に悩んでおられる方(裸眼の状態で遠くは見えるものの、手元が全然見えない方)は、むしろ思ったよりも手元が困らず、眼鏡なしで生活している方もおられるので個人差が大きいと言えます。
設計上、どうしても近方30cm程度はピントが合いにくいので、手元は老眼鏡で見るつもりで治療を受けていただくのがよいと考えています。そうは言っても当然ながら、単焦点レンズを使用した場合に比べれば老眼鏡が必要な頻度は少なくなります。
現在当院で使用しているEDOFレンズは以下の通りです。
選定療養対象のレンズであるため、コストパフォーマンスに優れています。独自の技術で、遠方から中間距離までハロー・グレアがほぼない自然な見え方を提供します。黄斑疾患があっても使用可能な場合があるのがEDOFレンズの特徴の一つですが、この強みを生かして黄斑前膜などに対する硝子体手術と同時に行う白内障手術でクラレオンビビティを使用することもあります。遠方から手元50cmまでは連続的にピントが合うように設計されています。
国内未承認レンズであるため、全額自費診療で使用するレンズです。片眼にMini WELL Ready、片眼にMini WELL PROXAという違う種類のレンズを使用するWELL FUSION™という方法で、手元から遠くまできれいにピントが合う見え方を期待することができます。両眼にMini WELL Readyを挿入した場合は手元の見え方がやや弱い場合がありますが、それでも手元40-45cmまでピントが合うので、手元の見え方はEDOFレンズの中では良好といえます。
国内未承認レンズであるため、全額自費診療で使用するレンズです。EDOFレンズと屈折型多焦点レンズの特徴を合わせ持ったレンズで、オーダーメイドで強度近視や強度の乱視にも対応している点が特徴です。EDOFレンズであるため手元の見え方が弱いですが、理論上の数値よりも手元が見えている場合もあり、経験上患者様の満足度がとても高いレンズです。
医学の進歩とともに多焦点眼内レンズの選択肢も多岐にわたり、便利になった一方で、その選択には高度の知識と十分な経験が必要です。当院では多焦点眼内レンズを使用した白内障手術を多く手がけておりますので、レンズの選択に悩まれている方はお気軽にご相談くださいね。
記事監修 眼科医 渡辺 貴士
日本眼科学会認定 眼科専門医
東京医科歯科大学眼科 非常勤講師
大学病院や数々の基幹病院において第一線で多数の手術を行ってきました。特に白内障手術と網膜硝子体手術を得意としています。現在も東京医科歯科大学の非常勤講師を兼任しており、大学病院での手術指導および執刀を続けています。