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上手な白内障手術=眼にかかる負担が少ない白内障手術

[2024.09.12]
上手な白内障手術とはどのような手術でしょうか。何をもって上手とするかは医師によって異なることもあるかと思いますが、普遍的な事実として誰が見ても上手だと思う手術とは、「眼にかかる負担が少ない白内障手術」であると言えます。眼に対する負担が少ない手術を行うことで、術後の回復が早くなり、また合併症のリスクを低減することができます。ここでは、眼にかかる負担が少ない手術の条件について解説します。
 
・眼が動かない
白内障手術は小さな傷口を眼の表面に作って、その傷口から眼内に器具を出し入れすることで行う手術です。器具の入口は小さな傷口ですから、眼内で器具を動かす際には傷口を支点としたシーソーのような手の動きが必要になります。この動きが甘いと、眼内で器具を動かす際に傷口に器具がひっかかり、眼が大きく動いてしまいます。眼が動くことにより視認性が低下して合併症のリスクが上がることと、傷口が引っ張られて角膜に負担がかかったり、傷口が閉じにくくなってしまったりします。上手な白内障手術では眼球がほとんど動きませんが、技術的に難しいためこのように手術を行える医師は多くありません。
 
・短時間である
手術時間が短いということは、眼に傷がついた状態(眼内と眼外の交通がある状態)である時間が単純に短いということです。また、眼内に器具が入っている時間が短い方が当然眼にかかる負担が少ないことは容易に想像できます。何より、手術時間が短いことにより、患者さんは手術を楽に受けられるためとても喜ばれます。当然ながら、手術の早さだけを追求した雑な手術は言語道断です。また、雑なだけの手術は早く終わるときは早いですがトラブルが起こる場合も多く、結果として手術時間にムラができるため、全体としてみれば手術時間が短いとは言えない場合も多いです。このことから、上手な手術をする医師は、極端な「いわゆる難症例」を除いて、大半の症例で手術時間がほぼ一定になります。(しかも5分程度の短時間であることが多いです)
 
・超音波発振の仕方が適切である
白内障手術は超音波を発振する機械により濁った水晶体を破砕し、同時に吸引します。超音波を適切に用いれば眼に対する負担は許容されますが、当然ながら硬い水晶体を破砕できるほどの威力がある超音波の振動は、使い方を誤れば眼を傷つけてしまいます。一番大切なことは、前述の手術時間とも重なりますが、超音波の発振時間を短くするのが重要です。熟練した医師であれば、最小限の超音波で水晶体を除去することができます。次に大切なことは眼内に入れる超音波装置(チップといいます)を大きく振り回さないということです。早く処理をしようとして眼内でチップをガチャガチャ振り回す医師がとても多いのですが、実は効率が良くなることはなく、むしろ予期せぬ合併症を招く可能性がある危険な操作です。チップの動きを最小限に留めるよう心がけることで眼に負担をかけず、合併症のリスクが少ない安全な手術を行うことができます。さらに、超音波を発振する場所も重要で、未熟な術者は角膜の近くで超音波を使用する傾向にありますが、これは角膜内皮細胞という一度失われると自然には再生しない大切な細胞を傷つけてしまうため望ましくありません。また、角膜を傷つけることで術後の視力回復が遅れてしまいます。
 
書けばキリがありませんが、上記の条件が比較的分かりやすいと思います。手術動画を公開している医師もいますが、そもそもどのような手術が良い手術か患者さんからはなかなか判断できないと思うので、参考になれば幸いです。
番外編としては、個人的に気をつけていることとして止血をきちんと行っており、同じように丁寧に止血を行う医師の手術を見るととても嬉しい気持ちになります。これは私が手術のお師匠様から教わったことなのですが、「自然に吸収されるものとはいえ、少量の出血が眼の表面に残るだけでも患者さんは術後に心配するので、そういった可能性を取り除くために一手間加える必要がある。どんなときでも患者さんの気持ちに立って手術をしないと上手な術者にはなれない」という教えに基づいています。眼の表面を小さく切開してもごく少量の出血であるため、わざわざ時間を割いて止血を行う医師は少ないのが実情ですが、患者さんのための手術をとことん追求する姿勢が重要であると考えています。
 
また、強角膜切開にこだわるということも個人的に妥協したくない点です。白内障手術で施す切開には強角膜切開角膜切開という二つの方法があり、これらは一長一短であるため各先生方の主義・主張があり、一元的にどちらが正しいというのは難しいです。例えば角膜切開の方が手技が単純であるため、30秒ほど時間が短縮できるというメリットがあります。一方で角膜切開では惹起乱視という乱視が生じやすく、一番嫌なこととして切開創(傷口)が眼表面に露出してしまうため、術後の感染リスクが強角膜切開よりも高いという報告がある点です。強角膜切開はわずかに手間がかかる分、このようなリスクが相対的に低く、さらに術後時間が経っても見た目がきれいなので、私は強角膜切開にこだわっています。医師によって色々な考え方があって然るべきですが、同じ考え方の医師をみると、「丁寧な先生だなあ」ととても親近感が湧くのです。
 
基本的には短時間で安全に終わる白内障手術ですが、手術である以上「絶対」はないので、安全で負担の少ない手術をいつまでも追求する必要があると考えています。私が駆け出しの頃に、お師匠様に弟子入りさせていただく条件が「大切な眼を自分に預けてくださる患者さんへの感謝を常に忘れず、一生努力し続けること」であり、これを肝に銘じて今後も一生努力を続けます。
 

記事監修 眼科医  渡辺 貴士

日本眼科学会認定 眼科専門医
東京医科歯科大学眼科 非常勤講師

大学病院や数々の基幹病院において第一線で多数の手術を行ってきました。特に白内障手術と網膜硝子体手術を得意としています。現在も東京医科歯科大学の非常勤講師を兼任しており、大学病院での手術指導および執刀を続けています。

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