眼内レンズによるモノビジョン
[2024.07.02]
白内障手術を行う際に右眼と左眼の眼内レンズ度数に差をつけて、左右の眼が違う距離にピントが合うようにすることをモノビジョンといいます。この方法を使うことで、「単焦点レンズを使用しながら、裸眼で手元も遠くも見えるようにできるのではないか」という考え方があるので、これについて私の考えを述べたいと思います。
結論から申し上げると、「単焦点レンズを使用したモノビジョン」はおすすめしません。一方で「多焦点レンズを使用したモノビジョン」については、状況によっては有効な場合があると考えています。以下にその理由を解説します。
まず、「単焦点レンズを使用したモノビジョン」についてですが、これは例えば右眼は遠くを見えるようにして、左眼は手元を見えるようにすることで手元も遠くも裸眼で見えるようにするというものです。
この場合、左右で大きな度数の差が生じるので、立体感覚がなくなったり、不同視や不等像視という現象により気持ち悪くなってしまったりすることがあります。また、単焦点レンズでのモノビジョンは、手元も遠くも片目に頼って見ることになるので、眼が疲れやすいです。脳がうまく順応して、手元と遠くを見るのに左右の眼をうまく切り替えながら眼鏡無しで生活できるようになれば、それは良いことなのかもしれないですが、もしもうまく順応できなかった場合、眼内レンズを摘出して交換したり、手術自体をやり直す必要があります。
ミニモノビジョンやマイクロモノビジョンといって左右の度数の差をわずかな差にすることで違和感を最小限にとどめる方法もあり、両眼の度数の差が0.5D程度の少ない差になるようなやり方であれば、左右差による違和感や疲労は大きな問題にならないことも多いです。この場合、単焦点レンズ使用の前提では結果的に広い範囲にピントが合うことはないので、結局眼鏡の装用が必要になります。
白内障手術はそもそも狙った度数の通りに術後ピントが合うとは限らず、術前の想定から多少の誤差が出ることが知られており、これを術後屈折誤差といいます。今は機械が進歩しているため、術前検査の際に機械がはじき出した度数からの誤差はかなり小さくなってはいるものの、モノビジョンで左右差をつけた状態からさらに誤差が出てしまえば、結果として思いもよらない左右差ができてしまう可能性もあります。
そもそも両眼同じような度数を狙って手術を行えば、多少術後屈折誤差が出たとしても大きな問題にならないことがほとんどです。このため、単焦点レンズを使用する場合には、眼鏡の使用を前提として、両眼でほぼ同じ度数を狙って手術をするのが安全と考えています。もともと左右の度数に差がある状態になれている方であっても、白内障手術の際にその差を残すことは安易に考えずに慎重に度数を決定するべきだと思います。
次に、「多焦点眼内レンズを使用したモノビジョン」ですが、ビビティなどの焦点深度拡張型(EDOF)レンズを使用する上で、どうしても手元の見え方が弱くなってしまうため、例えば「片眼手術を終えた後に、もう少しだけ手元を見たい」という状況で、もう片眼の度数をやや近視寄りに設定するマイクロモノビジョンは良い選択肢だと思います。マイクロモノビジョンであれば遠方の見え方を犠牲にすることはなく、また、多焦点レンズのため少し近視側に寄るだけで手元の見え方が改善する場合があるということです。しかしながら、積極的にビビティのマイクロモノビジョンを推奨するということではなく、あくまで選択肢の一つとしてお考えいただければと思います。
昔からモノビジョンについては多くの医師が研究を重ねてきました。近年は多焦点眼内レンズの性能が上がり、さまざまな種類のレンズが開発されたことから、眼鏡への依存度を減らす選択肢が増えています。原則として一生物の眼内レンズなので、後悔しないように最良の選択をしたいものですよね。
記事監修 眼科医 渡辺 貴士
日本眼科学会認定 眼科専門医
東京医科歯科大学眼科 非常勤講師
大学病院や数々の基幹病院において第一線で多数の手術を行ってきました。特に白内障手術と網膜硝子体手術を得意としています。現在も東京医科歯科大学の非常勤講師を兼任しており、大学病院での手術指導および執刀を続けています。