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硝子体手術で使用するタンポナーデ物質

[2024.04.17]
硝子体手術は、眼の奥に存在するゼリー状の組織である「硝子体」を切除することで、眼の奥に生じた病気を治す手術です。対象になる病気は網膜剥離、黄斑前膜、黄斑円孔、硝子体出血など多岐にわたります。
硝子体は、若いときにはしっかりとしたゼリーの状態であるため、眼球の形態維持などに寄与しますが、加齢とともに自然に液化していくことが知られています。液化した硝子体は、混濁して飛蚊症を引き起こしたり、網膜を牽引して網膜裂孔や網膜剥離の原因になったり、さまざまな病気の原因となります。硝子体が原因で起こってしまった眼の病気を治すためには、硝子体を切除する必要があるのです。硝子体を切除した後は、眼内は房水と呼ばれる水で満たされます。硝子体がなくなっても眼球の機能には問題ありません。それどころか、飛蚊症が改善したり、見え方もよくなる場合があります。
 
硝子体手術では、眼内を水分で満たしたまま終了する場合と、眼内に空気などのタンポナーデ物質を充填して終了する場合があります。網膜剥離の手術などにおいて、術後に網膜を押さえつけておく必要がある場合にタンポナーデ物質を使用します。病気の状態に応じてタンポナーデ物質を変更するのですが、一般的には空気、医療用ガス、シリコンオイルのいずれかのタンポナーデ物質を使用します。
 
1.空気
もっとも一般的で使いやすいタンポナーデ物質です。7-10日程度で自然に吸収されて、その後眼内は房水に置き換えられます。空気が入っていると見え方の質が大きく落ちてしまいますが、比較的短期間で吸収されるため早期より見え方が回復する点で使い勝手が良いです。一方で、短期間で吸収されるということは、短期間で網膜を押さえつける力がなくなってしまうということなので、長期間網膜を押さえつけておきたいような場合には向かないこともあります。
 
2.医療用ガス
空気よりも長期間眼内に滞留する効果を持っているのが医療用ガスです。SF6(六フッ化硫黄)とC3F8(八フッ化プロパン)が一般的に使用されます。通常使用される濃度では、SF6は2週間程度、C3F8は4週間程度で自然に吸収されます。空気と同様に自然に吸収されて、その後房水に置き換えられるのが特徴です。術後しばらく見え方が悪い時期が続いたとしても、より長期間網膜を押さえつけておきたい場合に医療用ガスを選択します。
 
3.シリコンオイル
空気や医療用ガスのように自然に吸収されず、眼の中に長期間留置することができるのがシリコンオイルです。長期間網膜全体をしっかり押さえたい場合に選択されます。また、シリコンオイルの特性上、手術の直後からある程度物を見ることができるという利点があります。自然に吸収されないので、通常は術後2−3ヶ月でシリコンオイルを抜去して眼内を房水に置き換えるための手術が必要になります。
 
上記がタンポナーデ物質の種類です。特に網膜剥離手術の際に、どのタンポナーデ物質を使用するかということがしばしば問題になります。同じ病気を治す上でも、使用するタンポナーデ物質は医師によって異なることも多いです。当院では、シリコンオイルよりは医療用ガス、医療用ガスよりは空気というように、なるべく患者様の負担を減らすようなタンポナーデ物質の選択を心がけています。
 

記事監修 眼科医  渡辺 貴士

日本眼科学会認定 眼科専門医
東京医科歯科大学眼科 非常勤講師

大学病院や数々の基幹病院において第一線で多数の手術を行ってきました。特に白内障手術と網膜硝子体手術を得意としています。現在も東京医科歯科大学の非常勤講師を兼任しており、大学病院での手術指導および執刀を続けています。

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