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眼内レンズ度数の計算について

[2023.05.26]
眼内レンズ度数の計算についてご説明します。
白内障手術は、濁った水晶体(白内障)を除去して、新しい人工水晶体(眼内レンズ)を挿入する手術です。
 
白内障手術の際には、手術手技が重要であるのは言うまでもありませんが、これと同様に重要なのは眼内レンズの種類(単焦点レンズもしくは多焦点レンズ)の選択と、眼内レンズ度数の計算です。
 
このうち、眼内レンズ度数の計算について解説します。
眼内レンズの度数は、患者さんの生活に合わせた適切な度数を選択する必要があります。運転やゴルフを裸眼で行いたい場合には遠方にピントを合わせる必要があり、新聞を読んだり、お手元の細かい作業(刺繍など)を裸眼で行いたい場合には近方にピントを合わせる必要があります。
単焦点レンズを選んだ場合、遠方にピントを合わせた方は手元は老眼鏡を使用して見る必要があり、手元にピントを合わせた方は遠方は眼鏡で見る必要があります。
 
上記のような患者さんのライフスタイルに合わせたピントの位置をご提案するのは非常に重要ですが、我々眼科医が手術を行う際に特に気にしているのは、術後屈折誤差を生じさせないということです。術後屈折誤差とは、想定したピントの位置と、術後に眼内レンズが入った後に実際にピントが合う位置の誤差のことです。機械で計算してなるべく誤差が出ないように眼内レンズの度数を選択することで、理想的な術後のピントを実現しますが、人間の身体ですからどんなに正確な機械で測定しても誤差の全くない予測は不可能です。現在の技術では生活に支障をきたすほどの大きな術後屈折誤差が生じることは稀ですが、例えば強度近視、強度遠視やLASIK後の眼など、術後屈折誤差が大きく出やすい場合もあり、誤差を減らす努力が必要です。
 
以下はやや専門的な話になります。
術後屈折誤差を減らすために当院では、基本的なことではありますが最新の眼軸長測定器(IOL マスター700)を採用しています。IOL マスター700には角膜後面乱視測定のオプション Total Keratometory(TK®を搭載しており、術後屈折誤差の原因となり得る角膜後面乱視まで考慮した度数計算を可能にしています。これにより従来のケラトメーターによる角膜乱視の測定だけでは検出できなかった乱視成分を検出することができ、より正確な眼内レンズ度数計算に寄与しています。
 
術後屈折誤差を減らすために、眼内レンズ度数の計算式についても拘っています。多数の計算式の中から、患者さんの目の状態に合わせた計算式を選ぶようにしています。強度近視眼などの術後屈折誤差が出やすい症例においても実績のあるBarrett Universal Ⅱ式を中心に、LASIK眼ではBarrett True-K式を選択するなど、臨機応変に最適と思われる計算式を採用します。眼内レンズの度数計算は画一的な判断が難しく、従来より実績のあるSRK/T式などの結果と照らし合わせて複合的な要素を勘案しながら行う必要があります。近年は、Hill RBF式Kane式など人工知能に基づいた計算式も普及してきています。特に、Kane式では従来予測が難しかった円錐角膜の術後屈折について予測精度の向上が期待されています。技術や知見の進歩に伴い、眼科医の知識もアップデートされることが重要だと考えます。
 
当院では術後屈折誤差をなるべく少なくして、一人一人に合う最適な眼内レンズを選択するよう努めています。一生物の眼内レンズですので、後悔のないようにさせて頂きたいと考えております。白内障にお困りの方はお気軽にご相談くださいね。
 

記事監修 眼科医  渡辺 貴士

日本眼科学会認定 眼科専門医
東京医科歯科大学眼科 非常勤講師

大学病院や数々の基幹病院において第一線で多数の手術を行ってきました。特に白内障手術と網膜硝子体手術を得意としています。現在も東京医科歯科大学の非常勤講師を兼任しており、大学病院での手術指導および執刀を続けています。

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