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多焦点眼内レンズ

多焦点眼内レンズとは

白内障手術では、濁った水晶体を取り除いた後に眼内レンズを挿入しますが、眼内レンズの種類によって術後の見え方が大きく異なります。単焦点眼内レンズは1か所にピントが合うレンズなので、見たい距離に応じて眼鏡の装用が必要となります。一方で、多焦点眼内レンズは複数の箇所にピントが合うように設計されているため、日常の多くの場面で眼鏡に依存しない生活を送ることが出来ます。
多焦点眼内レンズにはメリットとデメリットがあるため、個人の生活様式や眼の状態に合った眼内レンズを選択する必要があります。
 

多焦点眼内レンズのメリット

多焦点眼内レンズの最大のメリットは、近くにも遠くにもピントが合うので、眼鏡を取り扱う手間から解放されて裸眼での快適な生活を目指すことができる点です。
若い頃から裸眼で遠くがよく見えていた方は、年齢とともに老眼鏡や遠近両用眼鏡が必要になることが多いですが、多焦点眼内レンズを使用することで、老眼鏡や遠近両用眼鏡の使用頻度を大きく減らすことができます。
一方で近視の方は、常に眼鏡やコンタクトレンズを使用して生活していますが、多焦点眼内レンズを使用することで、裸眼で手元だけではなく遠くも見ることができるようになります。
 

多焦点眼内レンズのデメリット

1)コントラスト感度の低下
単焦点眼内レンズは目の中に入ってきた光を一点に集める構造であるために、ピントの合う1か所については鮮明な見え方を実現することができます。一方で、多焦点眼内レンズでは目の中に入ってきた光を複数の箇所に割り振るため、見え方の鮮明さが低下することがあります(コントラスト感度の低下)。レンズの種類によってコントラスト感度は異なります。
 
2)グレア・ハロー・スターバースト(異常光視症)
複数の箇所に光を割り振る構造により、夜間に強い光を見た時に、光がにじんだりぎらついたりする(グレア)、光の周辺部に輪がかかって見える(ハロー)、光源から放射状に伸びる光の線が見える(スターバースト)などの症状が出る場合があります。これらの症状は異常光視症と呼ばれており、レンズの種類によって程度は異なります。
 
3)目の病気によっては使用できない場合がある
多焦点眼内レンズの複雑かつ繊細な構造のために、網膜や視神経に病気がある場合には、術後に十分な視機能が得られない場合があります。一部の多焦点眼内レンズは網膜や視神経に病気があっても使用できるため、そのような種類のレンズの使用を検討します。
 

多焦点眼内レンズの種類

現在一般的に使用される多焦点眼内レンズは回折型焦点深度拡張型(EDOF)の2種類です。
回折型
回折型レンズでは、レンズの中に回折格子とよばれる小さな段差が作られており、この段差を通過した光は複数の焦点距離に割り振られるので、遠方・中間距離・近方がそれぞれ見えるようになります。手元までよく見えるというメリットがありますが、ハロー・グレアやコントラスト感度の低下が生じやすいというデメリットがあります。
焦点深度拡張型
焦点深度拡張型(EDOF)レンズは、レンズの表面形状を工夫することで焦点深度を拡張し、遠方から中間までの距離を連続的に見えるようにしています。回折型のレンズと異なり光を割り振る構造ではないので、ハローやグレアを生じにくいのがメリットですが、手元の見え方が劣る点がデメリットです。コントラスト感度が良好であるため、網膜や視神経に病気があっても使用できる場合があります。
 

選定療養の多焦点眼内レンズ

国内で承認されている多焦点眼内レンズは選定療養の対象となります。選定療養の制度を利用することで、費用負担を抑えながら多焦点眼内レンズを使用することができます。
 
当院で取り扱っている選定療養対象多焦点眼内レンズの一覧は下記の通りです。
 
1.テクニスオデッセイ (TECNIS Odyssey)
2.テクニスシナジー (TECNIS Synergy)
3.クラレオンパンオプティクス (Clareon PanOptix)
4.クラレオンビビティ (Clareon Vivity)
5.ファインビジョンHP (FINEVISION HP) 
 
 
Johnson & Johnson社がテクニスシナジーの後継レンズとして開発したレンズです。構造は連続焦点型レンズ(回折型レンズ)に分類され、滑らかな回折構造によりハロー・グレアが軽減していることが特徴です。シナジーに比べるとわずかに手元にピントが合いにくいという欠点がありますが、それでも他社の3焦点レンズと比較して遜色ない近方視力が出るというデータが示されています。乱視矯正にも対応可能です。
テクニスシナジー (TECNIS Synergy)
Johnson & Johnson社が開発したハイブリッド型多焦点眼内レンズで、従来の2焦点眼内レンズ(テクニスマルチフォーカル)と焦点深度拡張型(EDOF)レンズ(テクニスシンフォニー)のメリットを組み合わせた連続焦点型レンズ(回折型レンズ)です。約35cmから遠方まで連続的にピントが合うことが特徴です。乱視矯正にも対応可能です。デメリットは、特定の状況下でハロー・グレアが出やすい点です。
 
クラレオンパンオプティクス (Clareon PanOptix)
Alcon社が開発した回折型多焦点眼内レンズで、遠方、中間(60cm)、近方(40cm)の3か所にピントが合う3焦点レンズです。幅広い距離をカバーしており、日常生活の多くを裸眼で過ごすことが可能です。ハロー・グレアやコントラスト感度の低下はみられるものの、他のレンズと比較して高度ではありません。乱視矯正にも対応可能です。デメリットは、手元30cm程度の視力がやや劣る点です。
 
クラレオンビビティ (Clareon Vivity)
Alcon社が開発した非回折型(波面制御型)の焦点深度拡張型(EDOF)レンズです。遠方から中間までの距離に連続的にピントが合い、コントラスト感度が良好であるため、単焦点眼内レンズに近い自然な見え方を提供します。ハロー・グレアが極めて少ないのも特徴です。デメリットとしては、50cmより手前がやや見えにくいために、手元の細かい作業をする際には老眼鏡が必要になる可能性があることです。乱視矯正モデルがないために、強い乱視がある方には適応になりません。
黄斑前膜や加齢黄斑変性などの黄斑疾患や緑内障などの視神経疾患がある場合にも使用できる場合があります。
 

自費診療の多焦点眼内レンズ

国内で未承認の多焦点眼内レンズについては自費診療となるため、手術費用・多焦点レンズ代金・多焦点眼内レンズ挿入に必要な追加検査費用の全てが自己負担となります。
 
当院で取り扱っている国内未承認多焦点眼内レンズの一覧は下記の通りです。
1.インテンシティ(Intensity)
2.ミニウェル  (MiniWELL)
3.エボルブ (EVOLVE)
 
インテンシティ(Intensity)
イスラエルのHanita Lenses社が開発した5焦点の回折型多焦点眼内レンズです。3焦点眼内レンズが得意とする遠・中・近のピントに加えて、「遠方から中間」「中間から近方」の距離にも対応しており、より自然な見え方が期待できます。従来の回折型多焦点眼内レンズと比較して光の利用効率が高められており、コントラスト感度も良好です。ハロー・グレアも軽減されています。乱視矯正にも対応可能です。
 
ミニウェル  (MiniWELL)
イタリアのSIFI MedTech社が開発した焦点深度拡張型(EDOF)レンズです。ハロー・グレアが少ないことが特徴で、回折型多焦点眼内レンズにみられるような光学的エネルギーの損失が極めて少ないため、コントラストも良好です。
MiniWELLには、近方40-45cmまでが見えやすいMiniWELL Ready(ミニウェル レディ)と、近方30-35cmまでが見えやすいMiniWELL PROXA(ミニウェル プロクサ)の2種類のレンズがあります。左右の目に異なる種類のレンズを挿入するWell FUSION™という方法を用いることで、両眼が苦手な部分を補い合って近方から遠方まで自然な見え方となります。デメリットは、MiniWELL PROXAには乱視矯正モデルがない点です。
 
エボルブ (EVOLVE)
イタリアのSOLEKO社が開発した焦点深度拡張型(EDOF)レンズです。最大の特徴は、選択可能なレンズ度数の幅が非常に広く、強度近視や強度乱視の方にも対応しているという点です。多くのレンズでは制作範囲というものがあり、強度近視や強度乱視の方には適切な度数のレンズがないこともあります。EVOLVEは広い度数にオーダーメイドで対応するため、他の既成レンズでは最適な度数のレンズが存在しない強度近視の方でもEVOLVEであれば使用可能であることが多いです。乱視矯正レンズについても完全オーダーメイドで制作されます。
ハロー・グレアが少なくコントラストが良好である点がメリットですが、40-50cmより手前がやや見えにくいことがデメリットです。
 

術前検査と手術日

最適な眼内レンズの度数を決定するためには術前検査が必要になります。術前検査では、角膜屈折力や角膜形状、眼軸長などのデータを精密に測定します。
選定療養の対象となる「TECNIS Synergy、Clareon PanOptix、Clareon Vivity、FINEVISION HP」については、日本国内に豊富なレンズの在庫があるため、術前検査を行なった日から数日以降であればいつでも手術を行うことが可能です。
一方で、自費診療の対象となる国内未承認の多焦点眼内レンズ「Intensity、MiniWELL、EVOLVE」については、海外からの輸入となるため、術前検査を行なった日から手術日までは1ヶ月前後の時間が必要となります。
 

手術費用について

多焦点眼内レンズを用いた白内障手術では、使用する眼内レンズの種類により費用が異なります。
 
選定療養
国内で承認されている多焦点眼内レンズは選定療養の対象となり、手術費用については健康保険が適用されますが、多焦点眼内レンズ代金および多焦点眼内レンズ挿入に必要な追加検査費用については全額自己負担となります。
当院における選定療養対象多焦点眼内レンズ使用にかかる自己負担額は、レンズの種類や乱視矯正の有無にかかわらず一律片眼 30万円+税(33万円)です。
自費診療
国内で未承認の多焦点眼内レンズは自費診療となるため、手術費用・多焦点眼内レンズ代金・多焦点眼内レンズ挿入に必要な追加検査費用の全てが自己負担となります。
当院での手術にかかる費用は、乱視矯正の有無にかかわらず一律片眼 80万円+税(88万円)です。
上記の費用には眼内レンズ代金手術技術料薬剤代金術後3ヶ月の診療費用を含みます。
また、手術前検査の際に術前検査費用3万円+税を申し受けます。
 

よくある質問

おすすめの多焦点眼内レンズはありますか?

多焦点眼内レンズは種類が豊富なため、どれを選択すればよいのか悩まれてしまうかと思います。ライフスタイルや、もともと近視なのか遠視なのかによって最適なレンズは異なります。
費用の面(選定療養と自費診療)や、見え方の違い(回折型と焦点深度拡張型)を踏まえた上で、2024年時点で選択できる多焦点眼内レンズについて、『おすすめの多焦点眼内レンズ 2024年の最新情報』で解説しています。

左右の目に異なる多焦点眼内レンズを使用することはありますか?

多焦点眼内レンズを使用する場合には、一般的には同じ種類のレンズを両眼に挿入します。一方で、左右の眼に異なる多焦点眼内レンズを挿入するMix&Match(ミックスアンドマッチ)という方法があり、患者様によっては良好な見え方を実現することができます。
詳しくは『多焦点眼内レンズのMix&Match』で解説しています。

目の奥に病気があると、多焦点眼内レンズは使用できないのですか?

黄斑前膜や加齢黄斑変性などの黄斑疾患や、緑内障などの視神経疾患が高度にみられる場合には、回折型多焦点眼内レンズは使用することができません。しかし、焦点深度拡張型レンズ(EDOFレンズ)であれば、黄斑疾患や視神経疾患があっても使用できる場合があります。
詳しくは『焦点深度拡張型レンズ(EODFレンズ)』で解説しています。

単焦点レンズでも、遠くも近くも見える場合がある聞いたのですが本当ですか?
単焦点レンズで全ての距離をはっきり見るということは理論上は不可能であり、眼鏡を使用しないで遠方も近方も見たい場合には多焦点レンズを選択する必要があります。しかし、患者様によってはまれに単焦点レンズを使用したにもかかわらず眼鏡なしで生活される方もいらっしゃいます。
フェムトセカンドレーザーを使用しますか?
フェムトセカンドレーザーを使用したレーザー白内障手術は、通常のメスを使用した手術に対して、術後の視力や安全性の点で優位性を示す科学的根拠に乏しいため当院では行っておりません
白内障手術を行うにあたってフェムトセカンドレーザーを使用するメリットとデメリットについては、『フェムト秒(セカンド)レーザーを使用したレーザー白内障手術』で解説しています。
 

記事監修 眼科医  渡辺 貴士

日本眼科学会認定 眼科専門医
東京医科歯科大学眼科 非常勤講師

大学病院や数々の基幹病院において第一線で多数の手術を行ってきました。特に白内障手術と網膜硝子体手術を得意としています。現在も東京医科歯科大学の非常勤講師を兼任しており、大学病院での手術指導および執刀を続けています。

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