オルソケラトロジー
オルソケラトロジーとは
近年では近視進行を抑制する効果が明らかになり、小児の近視進行抑制に活用されています。近視は眼軸長(眼球の前後方向の長さ)が伸びることで進行しますが、オルソケラトロジー治療により眼軸長の伸長を抑制することができます。
小児の近視治療には、他にも低濃度アトロピン点眼薬や多焦点ソフトコンタクトレンズなどがありますが、いずれも近視の進行を抑制するものであり、完全に近視の進行を止めることはできません。
オルソケラトロジーのメリット
日中は裸眼で生活できる
日中の裸眼視力が向上するため、眼鏡やコンタクトレンズの装用が不要になる点が最大のメリットです。近視の進行抑制として行われるその他の治療では、裸眼視力そのものは向上しないため、日中は眼鏡やコンタクトレンズの装用が必要です。
親が管理しやすい
通常のコンタクトレンズは日中に装用するため、何かトラブルがあった際は、お子さま自身で対応しなければならず、ある程度の年齢まで成長を待つ必要があります。一方で、オルソケラトロジーは夜間就寝時のみの装用であり、保護者の方がレンズの装用状況や管理状況を直接確認することができるため、比較的早い年齢から治療をご検討いただけます。
治療を中止できる
オルソケラトロジーは眼表面の角膜形状を変化させますが、可逆的な変化であるため、レンズの装用を中止すれば角膜の状態は元に戻ります。
オルソケラトロジーのデメリット
毎日のレンズケアが必要
オルソケラトロジーで使用するレンズは毎日の適切な洗浄と管理が必要です。不適切なレンズの使用は、角膜感染症を引き起こし、重篤な視機能の低下を生じることがあります。オルソケラトロジーで使用するレンズは構造が複雑であるため、通常のコンタクトレンズよりも汚れが蓄積しやすく、洗浄時には注意が必要です。
ハロー、グレア、コントラスト感度の低下
夜間や薄暗い場所で光がにじんで見える、まぶしさを感じる、コントラスト感度が低下するなどの症状が出ることがあります。これらの症状は近視の矯正量が多いほど、生じやすいとされています。
角膜上皮障害、アレルギー性結膜炎
レンズが眼に直接接触するため、通常のコンタクトレンズと同様に角膜上皮障害やアレルギー性結膜炎などを生じることがあります。これらの合併症に対する治療は保険診療では行うことができず、自費診療で治療を行います。
オルソケラトロジーによる近視進行抑制
オルソケラトロジーは近視の矯正効果があることに加えて、眼軸長の伸長を抑制する(近視の進行を抑制する)ことが、数多くの臨床研究で報告されています。報告により差はありますが、2年間の装用で33〜63%程度の眼軸長の伸長を抑制したことが示されています。
オルソケラトロジー治療は、近視の進行が安定する(眼軸長の伸長が穏やかになる)10代後半まで続けることが理想的です。途中で治療を中断すると、近視の進行速度が治療前の水準に戻ってしまうリバウンドという現象が起こることがあります。
近視進行の抑制効果があるその他の治療には、低濃度アトロピン点眼薬などがあります。
オルソケラトロジーの適応
近視の度数が-1.0D〜-4.0D程度
オルソケラトロジーでは矯正できる近視の度数が限られており、-1.0D〜-4.0D程度の近視がよい適応です。これより近視が弱い場合や強い場合のいずれも適応にはなりません。
乱視度数が一定以下
十分な治療効果を得るためには、乱視の度数が強くないことも重要な条件です。乱視が強く通常のレンズでの治療が難しい場合には、特殊なデザインのレンズを使用する場合もありますが、診察を行った上で治療方針を決定します。また、角膜の形状に不規則なゆがみがある(不正乱視)場合にも治療を行うことができません。
十分な睡眠時間
夜間就寝中のレンズを装用している間に角膜の形状が変化するため、睡眠時間を十分確保することも重要です。理想的な装用時間は1日8時間程度で、最低でも6時間以上は必要です。
眼疾患がないこと
円錐角膜、角膜感染症、重度のアレルギー性結膜炎、重度のドライアイなどがある方では治療を行うことができません。
オルソケラトロジーの治療手順
1.適応検査(予約制)
オルソケラトロジーの適応があるかを調べるために、眼軸長検査、角膜内皮細胞検査、角膜形状解析検査などの検査を行います。各種検査で問題がなければ、トライアルレンズを用いてレンズの装用練習およびレンズのフィッティング確認を行います。所要時間は約90分です。
2.治療用レンズのお渡し
オルソケラトロジー治療を希望される場合には、実際にご家庭で使用する治療用レンズの注文を行います。注文から3営業日以降に、レンズを受け取ることが可能です。
3.本装用の開始
ご自宅で治療用レンズの装用を開始します。本装用を開始した2週間後、1ヶ月後、3ヶ月後に定期検診にお越しください。その後も、治療中は3ヶ月毎の定期検査を行います。
オルソケラトロジーの費用
適応検査:11,000円(税込)
適応検査は予約制です。
初期費用:両眼176,000円(税込)
角膜乱視が強く特殊レンズ(プレミアムレンズ)を使用する場合は、両眼198,000円(税込)です。初期費用には、「治療開始後3ヶ月までの診察費用、初回分のレンズケア用品(レンズケース、専用洗浄保存液、スポイト、装着液)」を含みます。
診察費用:6,600円(税込)
治療中は3ヶ月に1回の定期検査を行い、1回あたりの診察費用は上記の通りです。
当院で使用するレンズ
治療を希望される方へ
オルソケラトロジーなどの小児の近視治療は、新小岩眼科分院で行っています。新小岩眼科(本院)では対応していません。治療をご希望の方は、分院まで直接お越しください。
よくある質問
片眼のみオルソケラトロジーを行うことは可能ですか?
片眼のみ近視がある場合に、片眼のみオルソケラトロジーを行うことは可能です。片眼のオルソケラトロジーを行うことで、日中は両眼とも裸眼で生活することができます。
レンズを装用する際に痛みはありますか?
ハードレンズであるため、ソフトコンタクトレンズと比べて初期は異物感やごろつきを感じやすいですが、治療を開始して徐々に慣れることが多いです。
LASIK(レーシック)とは何が異なりますか?
LASIKは、レーザーを用いて角膜を部分的に切除することで、角膜の屈折を変化させて近視を矯正する方法です。一度切除した角膜を元に戻すことはできません。
オルソケラトロジーはレンズの装用により角膜の形状を変化させるだけであるため、レンズの装用を中止することで、角膜は元の形状に戻ることができます。
近視が強い場合には適応にならないのですか?
オルソケラトロジーで矯正できる近視の程度には上限があります。近視が強い場合には、-4Dだけ部分的に近視矯正を行い、残存した近視度数に対して眼鏡を装用する(partial reduction)という方法があります。
partial reductionでは、日中の裸眼視力の改善は限定的で眼鏡装用は必要になるものの、近視進行の抑制効果はあるため、メリットとデメリットを相談した上で治療を行います。
記事監修者について

日本眼科学会認定 眼科専門医
東京科学大学眼科 非常勤講師
大学病院や基幹病院において多数の手術を行ってきました。特に白内障手術と網膜硝子体手術を得意としています。現在も東京科学大学の非常勤講師を兼任しており、大学病院での手術指導および執刀を続けています。

