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感染性角膜炎

感染性角膜炎とは、眼の表面の角膜に細菌やウイルスによる感染が生じた状態です。
治療が遅れると重篤な視機能の障害を生じることがあるため、早期に的確な診断と治療を行うことが重要となります。感染性角膜炎の種類には下記のようなものがあり、このページではそれぞれの感染性角膜炎の詳細と治療方法について解説します。
 
 

感染性角膜炎の症状

自覚症状は軽症であれば、目の異物感を感じる程度です。しかし、重症になると強い目の痛みを感じるようになり、目やにや涙も出るようになります。
白目(結膜)に強い充血が起こり、特に黒目の周りの充血が強く生じる毛様充血を生じることもあります。
角膜の混濁が部分的である場合には見え方には影響がないことが多いものの、感染による混濁の範囲が広がると視力の低下も生じます。初期の混濁は、診察用の顕微鏡で細かく観察を行なわないと分からないことが多いですが、混濁が広がるとご自身でも角膜の濁りを確認できる場合もあります。
 

感染性角膜炎の診断

診察室内の細隙灯顕微鏡で眼表面を観察することで診断をおこないます。
どのような細菌が感染しているのかを調べるために、点眼麻酔を行った上で感染している病変の一部を取り除く場合があります。
 

細菌性角膜炎

細菌が角膜に感染を起こした状態です。感染する細菌の種類によって症状の重さや、進行のスピードが大きく異なります。
抗菌薬点眼による治療を行いますが、細菌の種類によって抗菌薬が有効である場合と無効である場合があるため、適切な抗菌薬による治療を行うことが重要となります。抗菌薬が無効な場合(抗菌薬に耐性がある場合)には、抗菌薬の種類を適宜変更しながら治療をおこないます。
細菌性角膜炎の原因となる細菌としては、ブドウ球菌、レンサ球菌、緑膿菌、モラクセラなどが知られています。
 
ブドウ球菌
ブドウ球菌はもともと結膜やまぶたに生育している常在菌で、通常の状態であれば悪さを起こすことはありません。しかし、コンタクトレンズの不適切な使用や外傷をきっかけに、細菌性角膜炎の原因となります。
角膜の一部が部分的に円形に濁り、その他の領域では透明感が保たれていることが多いです。
 
緑膿菌
緑膿菌は水分がある環境を好み、水がある場所(水道水、加湿器、川、海)や、土壌中や植物の表面などに存在します。コンタクトレンズの装用や外傷などに関連して発症し、特にソフトコンタクトレンズを連続して装用している場合にはリスクが高まります。
強い痛みと充血で発症します。感染した初期は軽度の角膜混濁のみですが、数日以内に急速に進行し、円形の大きな膿瘍(輪状膿瘍)が形成され、角膜全体にもすりガラス状の混濁と角膜浮腫を生じます。激しい炎症のために、前房蓄膿とよばれる炎症所見が観察されることもあります。
 

角膜ヘルペス

角膜ヘルペス(上皮型)
ヘルペスウイルスが角膜の表面に感染を起こした状態で、異物感・涙目・眩しさなどの症状を自覚します。目の表面の傷を見るための薬(フルオレセイン染色液)を用いて顕微鏡で観察すると、下記の写真のように先端部が膨らんだ枝分かれした病変(樹枝状病変)を認めます。この特徴的な見た目から、樹枝状角膜炎とも呼ばれます。樹枝状の病変が拡大すると、面状に角膜上皮が障害された状態となり地図状角膜炎と呼ばれる状態になります。
 
治療は、抗ウイルス薬(アシクロビル)眼軟膏を眼の表面に塗布します。治療期間は2〜3週間程度です。重症の場合には、抗ウイルス薬の内服が必要となることもあります。
ヘルペスウイルスは、眼の表面の知覚を行う三叉神経と呼ばれる場所に普段は潜んでおり、体の免疫力が低下した時に繰り返し角膜に病気を起こすことがあるので、再発した場合にはその都度治療をおこなうことが必要となります。
 
角膜ヘルペス(実質型)
上で紹介したのは上皮型と呼ばれ、角膜の表面にヘルペスウイルスが直接感染している状態です。
一方で実質型では、角膜実質(角膜の内部)に直接ヘルペスウイルス感染が生じているわけではなく、ヘルペスウイルスに対する免疫反応が原因で、角膜に淡い混濁と浮腫が生じた状態です。上皮型ヘルペスの治療中に発症する場合と、上皮方ヘルペスとは無関係に発症することがあります。
実質型角膜ヘルペスでは、円板状角膜炎と呼ばれる角膜のい中央に円形の浮腫を生じるのが特徴的です。円板状角膜炎の再発を繰り返すと、壊死性角膜炎を生じることがあります。
ステロイド点眼によって免疫応答を抑制する治療を行いますが、アシクロビル眼軟膏の併用により上皮型ヘルペスが発症するのを予防します。
 

アカントアメーバ角膜炎

アカントアメーバは、水道水・プール・温泉・土壌など自然界に広く存在する原生動物(単細胞生物)です。コンタクトレンズを不適切に使用している方に起こりやすい感染症で、コンタクトレンズのケース内に繁殖した緑膿菌などの細菌を栄養源として生育し、コンタクトレンズを装用した際に眼に感染します。
アカントアメーバを死滅させるための有効な治療法がないため、一度感染が生じた場合には視力予後が悪いことが多く、感染しないようにすることが何よりも重要です。

感染の進行速度は緩やかで、初期は放射状角膜神経炎(角膜輪部から中央に向かう線状の病変)や偽樹枝状病変などが特徴的です。その後感染が進行すると、角膜中央部への輪状や円板状の浸潤を生じます。病気の初期から完成期にいたるまで角膜ヘルペスと外観が似ているため、時に鑑別が難しいことがあります。

アカントアメーバ角膜炎の治療は有効な治療法がないため困難で様々な治療を組み合わせて、症状の改善を図ります。点眼麻酔を行った上で病巣部を物理的に取り除くことに加えて、抗菌薬・抗真菌薬・消毒薬などの様々な点眼薬を用いて治療を行います。難治性のため治療期間は長期にわたり、角膜の混濁が強く残存した場合には角膜移植が必要になることもあります。
 
上の写真は左側が初診時、右側が治療開始1ヶ月後です。初診時は強い結膜充血や眼痛の症状を認め、強い角膜の混濁のために眼内の診察を行うことは困難でた。頻回の感染病巣の除去と点眼薬の治療により、1ヶ月後には角膜混濁や結膜充血はある程度の改善が得られましたが、最終的には角膜疾患を専門に扱う医療機関への紹介となりました。
 

コンタクトレンズの使用方法の注意点

コンタクトレンズは快適な見え方で生活するために非常に便利なものです。しかし、高度管理医療機器にも指定されており、使い方を誤ると目に様々なトラブルを生じるため十分に注意して使用する必要があります。特に感染性角膜炎を発症し角膜の混濁が残ってしまった場合には、生涯に渡って視機能が低下してしまいます。
基本的なことになりますが、「汚い手でコンタクトレンズを触らない、コンタクトレンズを装用したまま寝ない、1日あたりの装用時間を守る、繰り返し使用するタイプのレンズは適切に洗浄と保管を行う、コンタクトレンズ使用期限を守る」などに注意してください。
 

よくある質問

市販の抗菌薬点眼で治療できますか?

市販の抗菌薬点眼では感染性角膜炎の治療を行うことはできません。市販の抗菌薬点眼で使用できる成分はごく一部に限られており、上記で説明したような感染性角膜炎を十分に治療することはできません。また、感染性角膜炎は治療が遅れると重篤な視機能の低下につながるので、少しでも感染性角膜炎の可能性がある場合には早めに眼科を受診するようにしてください。

耐性菌とはなんですか?

抗菌薬は万能ではなく、効果がある細菌は一部に限られており、適切な抗菌薬を選択する必要があります。もともとある抗菌薬で治療できていた細菌が、その抗菌薬では死滅しなくなった状態(耐性を獲得した)状態が耐性菌です。
耐性菌の出現は医療の現場で大きな問題となっており、耐性菌は不適切な抗菌薬の使用や、過剰な抗菌薬の使用が原因で発生します。以前に処方されて手元に残っている抗菌薬の内服薬や点眼薬を患者様の判断で使用することは耐性菌の出現を招くきっかけとなるため、ご自身の判断で使用しないようにしてください。

治療中にコンタクトレンズは使用できますか?

感染性角膜炎の治療中にはコンタクトレンズは使用はできません。コンタクトレンズは感染の温床となり病状を悪化させることになります。「眼鏡を持っていないので困る」「持っている眼鏡は古くて度数があっておらず使えない」という方がいらっしゃいますが、このようにコンタクトレンズの中止が必要となることがあるため、普段から適切に使用できる眼鏡を手元に持っておくことが大切です。

感染性角膜炎は他の人にうつりますか?

このページで紹介した感染性角膜炎は、通常の生活の範囲内では人から人へ感染する可能性は低いです。しかし、家族内で汚れたコンタクトレンズケースやコンタクトレンズの洗浄液などを使用している場合には、家族内で発症する可能性もあるため注意が必要です。

 

 

記事監修 眼科医  渡辺 貴士

日本眼科学会認定 眼科専門医
東京医科歯科大学眼科 非常勤講師

大学病院や数々の基幹病院において第一線で多数の手術を行ってきました。特に白内障手術と網膜硝子体手術を得意としています。現在も東京医科歯科大学の非常勤講師を兼任しており、大学病院での手術指導および執刀を続けています。

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