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強度近視(病的近視)

一般的な眼球は直径24mm程度の球形をしていますが、眼球の前後方向の長さ(眼軸長)が異常に伸びた状態を強度近視といいます。近視の度数で-6.0Dを超えている場合や、眼軸長が26.5mm以上の場合に強度近視に該当します。
ある程度までの近視であれば、眼鏡やコンタクトレンズの装用により視力は保たれます。しかし、強度近視の進行により眼球が前後に大きく引き伸ばされると、眼球の後方の組織(網膜や視神経)が引き伸ばされることで様々な病気を生じ、視機能が低下します。この状態を病的近視と呼びます。
 
 
 
強度近視に伴う眼の合併症については下記のものがあります。
1)近視性牽引黄斑症:網膜が引き伸ばされて、網膜が裂けた状態です。徐々に視力が低下します。
2)近視性脈絡膜新生血管:網膜内に異常な血管が侵入して、黄斑部に出血を生じた状態です。急激な視力低下となります。
3)近視性視神経症:視神経や視神経線維が引き伸ばされた状態で、徐々に視野障害を呈します。
4)近視性網脈絡膜萎縮:網膜、脈絡膜が著明に菲薄化することで進行する萎縮性病変です。

1)近視性牽引黄斑症

眼球が前後方向に伸びる際に、網膜も引き伸ばされて、徐々に網膜の層が裂けていきます(網膜分離)。初期の網膜分離の段階では、見え方の自覚症状は気にならない程度のことが多いです。
しかし、網膜分離が進行するにつれて、視力低下が進行します。さらに、最終的に網膜剥離(網膜が剥がれた状態)や黄斑円孔(網膜の中心部に穴があいた状態)などの重篤な状態に至ると見え方は悪化して治療を行なっても回復は限定的となるため、早期の硝子体手術が必要となります。
手術を行なっても視力は元通りに戻るわけではないので、初期の近視性牽引黄斑症の場合には定期的な経過観察を行いながら、適切な時期に手術を受けることが重要となります。
 
 
上記は網膜の断面図を見る検査(OCT)ですが、近視性牽引黄斑症が①→②→③のような形で進んでいきます。①では、黄斑の周辺部で網膜分離が認められますが、黄斑の中心部の構造は比較的保たれています。②では、網膜分離が進行し、網膜がかなり引き伸ばされている上に、部分的に網膜剥離の所見も認めます。③では、さらに網膜の中心部に穴があく黄斑円孔も合併しています。③の状態を黄斑円孔網膜剥離といい、手術も非常に難しく、手術が無事に終わっても視力の回復は限定的になります。

2)近視性脈絡膜新生血管

眼球が引き伸ばされる時に、網膜と脈絡膜の間を隔てているBruch膜という膜に亀裂が生じ、この亀裂を通して脈絡膜からの異常な血管(新生血管)が網膜内に侵入した状態を指します。出血を伴う場合もあり、急激な視力の低下やゆがんで見えるなどの症状を自覚します。
 
近視性脈絡膜新生血管は、活動期瘢痕期萎縮期の3つの段階で進行します。このうち治療の対象になるのは活動期の近視性脈絡膜新生血管です。活動期には前述の出血がみられたり、滲出性変化といって網膜が浮腫を起こしたり、病勢が強い場合には網膜剥離を生じる場合もあります。

治療は、抗VEGF薬と呼ばれる薬を眼内に注射します。抗VEGF薬の硝子体内注射により、新生血管の勢いを抑えることができます。1回の注射で病態の改善が得られることが多いものの、再発を繰り返した場合には複数回の注射が必要となります。

活動期が終わった近視性脈絡膜新生血管は、瘢痕期に移行します。瘢痕期には出血や滲出性変化は見られなくなり、新生血管自体が小さい場合や、病変が黄斑から外れている場合には比較的良好な視機能が保たれることもあります。一方で大きな病変が黄斑の中心に存在する場合や、活動期に網膜障害が強く起こった場合においては、瘢痕期においても視力低下やゆがみの症状が強く続くことがあります。

瘢痕期の新生血管は、瘢痕期のまま沈静化してしまうこともありますが、萎縮期に進行すると新生血管周囲の網膜が萎縮してしまいます。それはしばしば黄斑を含むため(近視性脈絡膜新生血管関連黄斑萎縮)重篤な視機能低下の原因となります。近視性脈絡膜新生血管関連黄斑萎縮は、病的近視による失明は主要な原因の一つです。このことから、近視性脈絡膜新生血管の治療(早期発見・診断、治療)は病的近視眼の視機能予後に直結すると言えます。

 

<単純型黄斑部出血>

近視性の脈絡膜新生血管と鑑別が必要な状態に、単純型黄斑部出血(Hs)があります。眼球が引き伸ばされてBruch膜に亀裂が入った時に、脈絡膜の毛細血管が障害された時に生じる出血です。急激な視力の低下を自覚しますが、異常な血管(新生血管)が生じているわけではないため、時間経過とともに自然に軽快が得られます。

ただし長期的には網脈絡膜萎縮や新生血管の発症につながることがあるため、注意して経過をみることが必要です。

 

3)近視性視神経症

眼球が前後方向に伸びる際に、視神経や視神経線維が引き伸ばされて障害されることにより、視野が欠けてしまった状態です。治療は、緑内障(視神経が障害されることで視野が欠ける病気)と同様に、点眼薬にて眼圧を下げる方法となります。眼圧を下げることで視神経にかかる負担を減らすことができ、視野が欠けていく速度を緩和することができます。
一度欠けてしまった視野は元に戻ることはないので、強度近視の方では定期的な視野検査を行い、早い段階で治療を開始することが重要となります。
 
 

4)近視性網脈絡膜萎縮

眼球が前後方向に引き伸ばされる際に、網膜や脈絡膜も同時に引き延ばされ、薄くなってしまいます。これに伴い網膜の裏の脈絡膜血管が透見されるようになり、この状態を豹紋状眼底(または紋理眼底)といいます。豹紋状眼底は近視性網脈絡膜萎縮の第一段階といえますが、この状態では視機能に与える影響はほとんどありません。

さらに近視性網脈絡膜萎縮が進行すると、びまん性網脈絡膜萎縮とよばれる変化が生じます。萎縮部分が黄色くみえることから「黄色い眼底」と言われる病変です。初期には点状・線状の萎縮から始まり、萎縮の進行に伴って面状に萎縮病変が拡がっていくことが知られています。病的近視の病型を分類したMETA-PM分類によれば、びまん性網脈絡膜萎縮以上の近視性網脈絡膜萎縮を伴う症例について「病的近視」と定義しています。小児期にびまん性網脈絡膜萎縮がみられる場合、将来病的近視に進行するリスクが高いことが分かっており、視力予後を予測する上でも非常に重要な病変です。近年では、病的近視による失明リスクを下げるために、びまん性網脈絡膜萎縮が小児期に観察された場合には近視を進行させない取り組みが重要であると考えられています。

ついにはBruch膜という網膜のすぐ下にある膜に孔が開いてしまい、その後孔が癒合、拡大することで進行していく限局性網脈絡膜萎縮に至ります。限局性網脈絡膜萎縮が生じた網膜に対応する視野は絶対暗点(視野の欠損)となりますが、中心を脅かすことは極めて稀で、これが進行したとしても中心視力障害の原因になることはほとんどありません。中心視野を障害し、著しい視力低下の原因になる網脈絡膜萎縮としては、前述の近視性脈絡膜新生血管関連黄斑萎縮が知られており、一度生じると視機能予後は不良です。

Bruch膜の病変としては、Bruch膜の亀裂のような病変であるLacquer crack (Lc)があり、これが将来的に限局性網脈絡膜萎縮に進行することがあることも報告されており、病的近視において様々な病態に関与すると考えられています。META-PM分類においても、近視性脈絡膜新生血管やFuchs斑とならぶプラス病変として分類される、非常に重要な所見です。

 
 

記事監修 眼科医  渡辺 貴士

日本眼科学会認定 眼科専門医
東京医科歯科大学眼科 非常勤講師

大学病院や数々の基幹病院において第一線で多数の手術を行ってきました。特に白内障手術と網膜硝子体手術を得意としています。現在も東京医科歯科大学の非常勤講師を兼任しており、大学病院での手術指導および執刀を続けています。

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