低濃度アトロピン点眼
低濃度アトロピン点眼とは
小児の近視進行を抑制することを目的とした点眼薬です。
近視の程度は、眼軸(眼の前後の長さ)が長くなることで強くなりますが、低濃度アトロピン点眼薬を使用することで、この眼軸長の伸長を抑制することができます。
2025年に低濃度アトロピン点眼薬である「リジュセアミニ点眼液0.025%(参天製薬)」が国内で初めて承認されたことにより、ますます治療に取り組みやすくなりました。
近視進行抑制とは
低濃度アトロピン点眼薬を用いた近視進行抑制では、完全に近視の進行を止めることはできないものの、近視の進行を軽度に留めることができます。
軽度から中等度の近視であれば、眼鏡やコンタクトレンズなどで良好な矯正視力を得ることができますが、高度に進行した強度近視(病的近視)の状態では、様々な合併症を生じ矯正視力も低下します。近視は一度進行すると後から治療することはできない(一度伸びた眼軸は元には戻らない)ため、早期から治療を行って近視進行を予防することが大切です。
近視進行抑制の原理
低濃度アトロピン点眼薬が近視進行を抑制する正確な機序は明らかになっていないものの、網膜や強膜に存在するムスカリン受容体をブロックすることで、眼軸長の伸展を抑制しているという説が有力です。
近視進行抑制の治療には他にもオルソケラトロジーがありますが、オルソケラトロジーの治療原理としては軸外収差理論が考えられています。軸外収差理論とは、視軸(光の通り道の中心)から外れた周辺部網膜のピントが合わないことにより近視が進行するというものです。
低濃度アトロピン点眼のメリット
治療が簡便
1日1回の点眼薬による治療であるため、年少者でも治療に取り組みやすいです。保護者の方が管理しやすいのも安心です。
治療費用が比較的安い
近視治療(近視の進行抑制)は保険診療の適用外で自費診療となるため、ある程度の初期費用が必要になりますが、他の治療に比べると費用面の負担は少ない治療です。
他の治療と併用できる
オルソケラトロジーなど他の近視治療を同時に行うことができます。特にオルソケラトロジーを併用した場合には、オルソケラトロジー単独よりも高い近視進行抑制の効果が報告されています。
低濃度アトロピン点眼のデメリット
少ないが副作用がある
瞳孔を広げる作用があるために、眩しく見えること(羞明)がありますが、就寝前に使用することで問題になることは少ないです。他にも霧視(霞んで見える)、調節障害(手元が見えにくい)、グレア(光がにじんで見える)など少ない頻度で生じることがありますが、いずれも使用を中止することで症状は消失します。
リバウンド
低濃度アトロピン点眼薬の使用を中止することで、近視進行の速度が治療前の水準に戻ってしまうことがあります。
治療方法
治療の適応
軽度の近視の方から使用可能です(近視のない方は治療の対象外です)。5歳頃から治療を開始することが可能で、治療終了時期の目安は近視進行が安定化する10歳代後半までになります。
使用する点眼薬
当院では低濃度アトロピン点眼薬としてリジュセアミニ点眼液0.025%(参天製薬)を採用しています。日本で初めて厚生労働省から製造販売承認を取得した近視進行の抑制を目的とした点眼薬です。
従来のマイオピン点眼との違い
国内で承認された低濃度アトロピン点眼薬がなかった頃は、マイオピン点眼を輸入して使用していました。リジュセアミニ点眼液0.025%は従来のマイオピン点眼とは異なり、単回使い切りタイプで防腐剤が使用されていないため、長期間使用しても角膜や結膜に対する影響が少なくなっています。
また、薬の効果が後部強膜へ十分に移行することは保ったまま、虹彩や毛様体への移行性を抑制するように設計されており、マイオピン点眼でよく見られた羞明などの副作用が軽減されています。
治療手順・治療費用
一般的な眼科検査や目の状態について診察を行った上で、近視進行抑制の治療を希望される場合には、追加で各種検査が必要になるため適応検査を行います。適応検査は予約制です。
低濃度アトロピン点眼薬を使用した近視進行抑制は保険適用外であるため、自費診療として以下の費用がかかります。
適応検査 11,000円(税込)
TOPCON社のMYAHという検査機器を使用し眼軸長測定や角膜形状解析を行います。現在の近視の程度を詳細に確認し、治療の適応について判断します。
治療費用 4,380円(税込)/ 1ヶ月
適応検査後に治療を希望される場合には、受付でリジュセアミニ点眼液0.025%をご購入いただきます。
診療費用 6,600円(税込)
治療開始1ヶ月後に定期検査を行い、治療が継続できるかを判断します。問題がなければ、以降は3ヶ月毎に定期検査を行い、近視の進行状況について確認します。
治療を行う際の注意点
自費診療中に生じた合併症の治療は保険診療で行うことはできません。低濃度アトロピン点眼治療中に角結膜上皮障害やアレルギー性結膜炎などを生じた場合の治療は、自費診療で行います。
オルソケラトロジーとの併用について
低濃度アトロピン点眼薬を用いた治療中に、オルソケラトロジーの治療を併用することができます。低濃度アトロピン点眼薬やオルソケラトロジーによる治療をそれぞれ単独で行った場合よりも、両者を併用することでより高い近視進行の抑制効果があることが報告されています。
低濃度アトロピン点眼薬による治療では裸眼視力は変化しないため、日中は眼鏡やコンタクトレンズの装用が必要です。裸眼視力の改善を希望される場合には、オルソケラトロジー治療を検討します。
よくある質問
視力は回復しますか?
低濃度アトロピン点眼薬により近視進行抑制の治療では、裸眼視力は改善しません。矯正視力を向上させるために眼鏡やコンタクトレンズの装用が別途必要です。
点眼を忘れた場合はどうすればよいですか?
点眼を忘れた場合には、次の就寝前に予定通りの点眼を行ってください。1日2回使用したり、1回に2滴点眼することは避けてください。適切な点眼の頻度や量を守らないと、副作用を生じるリスクがあります。
記事監修者について

眼科医 渡辺 貴士
日本眼科学会認定 眼科専門医
東京科学大学眼科 非常勤講師
大学病院や基幹病院において多数の手術を行ってきました。特に白内障手術と網膜硝子体手術を得意としています。現在も東京科学大学の非常勤講師を兼任しており、大学病院での手術指導および執刀を続けています。

