眼瞼腫瘍とは
眼瞼腫瘍は、眼瞼(まぶた)にできる様々な形の腫瘍性病変です。良性腫瘍と悪性腫瘍に分けられます。眼瞼腫瘍の多くは良性で、良性腫瘍は特に治療を行わず様子をみることができます。
良性か悪性かは見た目だけは完全に区別することはできません。良性腫瘍に見えても年々大きくなっている場合には、切除摘出を行って病理検査(取り出した組織を顕微鏡で観察して、腫瘍の良悪性を判断する)を行うことが大切です。
見た目(整容面)が気になる場合には、良性腫瘍であったとしても切除摘出を行うことが可能です。良性の眼瞼腫瘍として頻度が多いものに、母斑、脂漏性角化症、乳頭腫などがあります。
眼瞼腫瘍の種類
母斑
母斑(ぼはん)は、一般的にほくろや黒あざと呼ばれる良性腫瘍で、眼瞼腫瘍の中で最も頻度が高いものです。どの年代においても発症し、長い経過で少しずつ大きくなります。
表皮深部から真皮内において、母斑細胞とよばれる細胞が増殖することで生じます。色合いは含有するメラニン色素の量によって異なり、黒色調が強いものから、黒色調が淡く周囲の皮膚の色に近いものまで様々です。
上の2枚の写真では、上眼瞼の辺縁に表面が円滑な黒色〜黒褐色の母斑を認めます。
上の2枚の写真は、色素が少ない母斑です。左側の睫毛列に沿って生じた母斑は、母斑自体から睫毛が生えています。右側の母斑は、赤みを帯びて光沢のある外観になっています。
脂漏性角化症
脂漏性角化症(しろうせいかくかしょう)は、表皮の加齢性変化による良性腫瘍です。20歳代から発症し、中高年以降はほぼ全ての人に見られます。顔面・頭部・体幹などに生じ、「褐色~黒褐色、表面が角化物でザラザラ、乳頭状の形態」を特徴とする隆起性病変です。
数ヶ月以内に掻痒感を伴って脂漏性角化症が多発した場合には、内臓悪性腫瘍(胃癌など)の合併に注意が必要です。
上の写真は同じ方の右眼と左眼にそれぞれ生じた脂漏性角化症で、いずれも黒褐色調で房状の外観になっています。
上の2つの写真はそれぞれ違う方の脂漏性角化症ですが、外観の印象が大きく異なります。
尋常性疣贅
尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい)は、一般的にいぼと呼ばれる腫瘍で、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によって生じます。境界が明瞭で表面が粗い外観となります。脂漏性角化症や乳頭腫との鑑別が難しいことがあります。
乳頭腫
乳頭腫(にゅうとうしゅ)は、血管成分を含むために赤色〜ピンク色の光沢があり、乳頭状の凸凹を伴う良性腫瘍です。20-30歳代によくみられ、多発することが多いです。50歳以降では1ヶ所のみに見られるようなケースが多いです。
ヒトパピローマウイルス(HPV)6&11型との関連性が指摘されていて、手術で取り除いても再発することが多いとされています。
黄色腫
黄色腫(おうしょくしゅ)は、まぶたの皮膚に生じる黄色の扁平な隆起性病変です。まぶたの鼻側で生じることが多く、上下のまぶたに多発することや、左右対称性に生じることもあります。
脂質異常症や糖尿病に合併することがあります。通常は中高年に多い疾患ですが、家族性高コレステロール血症の場合には若年者においても発症します。
上の写真では、好発部位である上眼瞼の鼻側に黄色腫を認めるだけではなく、下眼瞼全体にも黄色腫が広がっています。
血管腫
血管腫(けっかんしゅ)は、皮下に暗赤色の柔らかい腫瘤として認められる良性の腫瘍です。
拡張して増殖した血管と結合組織から構成されています。
脂腺過形成
脂腺過形成(しせんかけいせい)は、脂腺組織由来の良性腫瘍で、マイボーム腺や涙丘の脂腺から発生する腫瘤性の病変です。色調は白色から黄白色です。
涙丘に生じた場合にはドーム状や半球状になりますが、マイボーム腺由来で眼瞼縁に生じた場合には不整な形となるため、悪性腫瘍である脂腺癌との鑑別が難しくなることがあります。
上の写真は両眼の涙丘に生じた脂腺過形成で、表面がカリフラワーのような凹凸を伴ったドーム状の病変になっています。
眼瞼腫瘍の治療
いずれの腫瘍においても眼瞼に麻酔を行った上で、腫瘍よりも一回り広い範囲を含めて切除摘出を行います。
病変が小さい場合には、傷口を縫合することもなく、抗菌薬の眼軟膏を表面に塗るだけで傷口が自然に綺麗に治ります。病変が大きい場合には、傷口の縫合が必要です。
問題なく切除摘出を行っても、一部の腫瘍が残存することや、腫瘍が再発することもあるため、メリットとデメリットを考慮した上で治療を行います。
記事監修者について
瞼の手術や涙道の治療を行う眼形成外科を専門としています。特に眼瞼下垂手術を得意としており、眼科専門医として眼の機能を第一に考えながら、整容面にも最大限配慮した治療を心がけています。
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