回折型多焦点眼内レンズ
[2024.08.29]
回折型多焦点眼内レンズとは、多焦点眼内レンズの種類の一つで、「光の回折」という現象を利用して手元と遠くに光を振り分ける仕組みのレンズです。とても多く使われているレンズであり、現在多焦点眼内レンズの手術を受ける際にはほとんどの方が回折型多焦点眼内レンズもしくは焦点深度拡張型(EDOF)多焦点眼内レンズのどちらかから選ぶのではないでしょうか。
回折型多焦点眼内レンズは3焦点や5焦点など、いくつかの箇所にピントが合うことにより、手元も遠くも視力が出やすいのが最大の特徴です。中には回折型レンズと焦点深度拡張レンズの技術を組み合わせたレンズもあり、これは連続焦点レンズと呼ばれています。
回折型多焦点眼内レンズの代表的な欠点として、異常光視症と呼ばれる特徴的な光の見え方(ハロー、グレア、スターバースト)が出やすいことが挙げられます。ハローとは光の周りに輪っかが見える現象、グレアは光がギラっとまぶしく見える現象、スターバーストは光の周りに放射状に線が見える現象で、これらは特に夜間などの暗い環境で顕著になります。現在は、このような特徴的な光の見え方が減少したレンズが発売されていますが、それでもゼロにはならないため、特に夜間の運転が多い方などは注意してレンズを選択する必要があります。
また、回折型多焦点眼内レンズでは、光を手元と遠くに振り分ける関係で、入ってくる光を100パーセント利用することができず、必ず光のロス(損失)が生じます。光のロスにより、単焦点レンズに比較してくっきり見えにくいことがあり、これを「コントラスト感度の低下」といい、代表的な回折型多焦点眼内レンズのデメリットとして知られています。一方で、そもそも単焦点レンズとの比較をする際、例えば遠方にピントが合った単焦点レンズの見え方との比較であるとすると、確かに遠方において多焦点眼内レンズはコントラストの点で劣りますが、一方でこれが近方での比較になれば多焦点眼内レンズの圧勝なので、単焦点レンズとの純粋な比較は難しいと考えられます。
回折型多焦点眼内レンズは、上記のようにメリットだけでなく、デメリットがあるために黄斑に病気がある方や、進行した緑内障がある方は適応になりません。性格的なところでも、上記のような特徴的な見え方が必要以上に気になってしまう神経質な方にも向いていないと言われています。全ての方にとって最善の選択というわけではないものの、向いている方にとってはとても便利なレンズであると言えます。
当院で多く使用している回折型多焦点眼内レンズは以下の通りです。
・テクニスオデッセイ (TECNIS Odyssey) 回折型と焦点深度拡張型の技術を組み合わせた連続焦点レンズです。ハロー・グレアが比較的抑えられている一方で、このレンズの前身にあたるテクニスシナジーに比して手元の視力はやや出にくいとされています。
・テクニスシナジー (TECNIS Synergy) 回折型と焦点深度拡張型の技術を組み合わせた連続焦点レンズです。手元の視力が出やすいのが特徴ですが、ハロー・グレアが出やすいレンズであるため、夜間の運転が多い方は注意が必要です。
・クラレオン パンオプティクス (Clareon PanOptix) 回折型の3焦点レンズです。手元の見え方はテクニスシナジーよりもやや見劣りする印象ですが、ハロー・グレアがややマイルドであることが知られています。
・インテンシティ (Intensity) 回折型の5焦点レンズです。光のロスが6.5%程度と非常に少ないため、コントラスト感度の低下やハロー・グレアが少ない良質な見え方を提供します。国内未承認レンズであるため自費診療となります。
眼内レンズの選択は、一生の生活を変える可能性のある選択です。近年、科学技術の進歩に伴い様々な眼内レンズが開発されており、人によって最適なレンズは異なるため、担当医とよく相談された上でレンズを決定して下さいね。
記事監修 眼科医 渡辺 貴士
日本眼科学会認定 眼科専門医
東京医科歯科大学眼科 非常勤講師
大学病院や数々の基幹病院において第一線で多数の手術を行ってきました。特に白内障手術と網膜硝子体手術を得意としています。現在も東京医科歯科大学の非常勤講師を兼任しており、大学病院での手術指導および執刀を続けています。