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単焦点レンズを入れたのに手元も遠くも裸眼で見えている人

[2024.09.03]
白内障手術で使用する単焦点眼内レンズは、術後裸眼でピントが合う距離を手元もしくは遠方のどちらかから選択して、ピントが合わない距離については眼鏡で見るという仕組みのレンズです。(中間」にピントを合わせる方もいます)このため、原則的には眼鏡無しでは生活できないレンズにはなりますが、稀ではあるものの「単焦点レンズを選択したのに術後に眼鏡無しで手元も遠くも見えている人」もいるため、このような方がどのような状態と考えられるか解説します。
 
①角膜乱視により、たまたま手元にもある程度ピントが合っている状態
角膜乱視とは生まれつきの眼の歪みです。角膜乱視は歪みの形状によって直乱視倒乱視に分類されますが、このうち特に直乱視ではたまたま複数の箇所にピントが合う多焦点効果が生じる場合があり、結果として手元も遠くもある程度見えるようになることがあります。しかし多焦点レンズを挿入するときのようにこれを狙って再現することは困難で、あくまで結果論であるという点に注意が必要です。また、直乱視とはいっても乱視であることに変わりはないので、強度の直乱視が術後に残存することが予測される場合は、むしろこの乱視を軽減するようなレンズ(トーリックレンズ)を挿入します。(多焦点効果を期待して敢えて強い直乱視を残すことはしません)
 
②手元にピントを設定して、遠くはあまり見えていないがそれに慣れている状態
高齢の方で多いのがこのパターンです。手元は裸眼で見えるので困っておらず、遠くについても本来であれば眼鏡が必要なのですが、遠くが見えない生活に慣れてしまっているので不自由がない状態です。遠くが見えていないことに自身がそもそも気付いていないことも多く、この場合「遠くも手元も裸眼で見えている」と仰います。しかしながら、当然遠方はしっかり見えていないため、転倒リスクなどを考慮すると少なくとも外出時には遠用眼鏡を装用する習慣をつけるべきです。
 
③遠方または中間にピントを設定して、手元はあまり見えていないがそれに慣れている状態
上記②のパターンと逆の状態にあたり、これも高齢者の方に多いです。手元の細かい字は見えないのですが、そもそも細かい字を読む機会が多くない生活をされている場合に手元が見えていないこと自覚する機会が少なく、日常的に不便がないことがあります。そうは言っても、手元を全く見ないで生活している方はいないので、②のタイプの方よりは少ない印象です。
 
④両眼ともにピントの合う距離が異なる状態(モノビジョン)
意外に多いのが、片眼で遠くを、もう片眼で手元をといった具合に、両眼で違うところにピントが合っていて、手元と遠くで使う眼をうまく切り替えて、手元も遠くも裸眼で見ている状態です。これを専門的にはモノビジョンといい、遠くも手元も片眼で見ているため立体感覚に乏しいことと、うまく順応できない場合に気持ち悪くなってしまうことがあるので意図して両眼の度数に大きく差をつけるのはおすすめしません。術前に右眼と左眼に度数の差がある所謂「がちゃ目」の状態の方においても、術後そのまま差をつけた度数を安易に選択するべきではないと考えています。モノビジョン法については昔から多くの研究が行われていますが、上記のようなうまく順応できないリスクが残ることや立体感覚に乏しい見え方になってしまうことは原理上避けられません。現在は良質な多焦点レンズが選定療養制度のもとで使用可能であり、眼鏡をしない生活を望むのであれば多焦点レンズを選択し、そうでなければ手元と遠くのどちらかにきちんとピントを合わせて見えないところを眼鏡で補うのが良い選択だと考えています。
 
単焦点レンズで全ての距離がはっきり見えると言うことは理論上あり得ないのですが、同じ単焦点レンズを使用していても患者さんによって眼の状態や患者さん自身の見え方(感じ方)は様々であるということがお分かりいただけたと思います。
 

記事監修 眼科医  渡辺 貴士

日本眼科学会認定 眼科専門医
東京医科歯科大学眼科 非常勤講師

大学病院や数々の基幹病院において第一線で多数の手術を行ってきました。特に白内障手術と網膜硝子体手術を得意としています。現在も東京医科歯科大学の非常勤講師を兼任しており、大学病院での手術指導および執刀を続けています。

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