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単焦点レンズで「中間」にピントを合わせたい

[2024.09.02]
白内障手術の際に単焦点レンズを選択すると、術後に裸眼の状態でピントが合う距離を決める必要があります。全体の中の割合としては遠方に設定する方が多いですが、もともと近視の方は術後も手元にピントが合うようにすることが一般的です。遠方の場合は数メートルより遠くにピントが合うイメージで、手元の場合は30-40cm程度の距離にピントが合うようにします。遠方に設定した場合、手元は見えないので老眼鏡を装用する必要があり、一方で手元に設定した場合には原則眼鏡をして日常生活を送り、手元を見るときだけ眼鏡を外すようなイメージです。
 
いちいち眼鏡を掛け外しするのが面倒という理由で、手元も遠くも裸眼で見えるようにしたい場合には多焦点レンズを検討します。一方で、経済的な理由などから多焦点レンズが選択肢に入らない場合、単焦点レンズを使用した上で左右のレンズの度数をずらすモノビジョン法を検討したり、単焦点レンズのピントを遠方でもなく、近方でもなく、「中間」に設定しようと考える方がおられます。ここでは、眼鏡への依存度を減らすために安易に「中間」のピントを選択することはおすすめしない理由を解説します。
 
中間」にピントを合わせるということは一般的に1m程度のところにピントを合わせることを指すことが多いです。専門的には「屈折度数-1D(ディオプター)を狙う」といいます。中間にピントを合わせた場合に一番嫌なこととして、遠くも手元も中途半端で、はっきり見えない可能性があると言うことです。例えば部屋のテレビや道路標識など、遠くにあるものにきちんとピントが合わないので、「なんとなく見える」ような感覚になる可能性があります。また、手元もはっきりとは見えないので、これも全く見えないわけではないけれど細かい字は見えない不便な状態になってしまうことがあります。眼鏡への依存度を下げるために中間にピントを合わせたにも関わらず、結果として遠くをしっかり見るのに眼鏡が必要で、手元をきちんと見るためには老眼鏡が必要になるという本末転倒な結果になりかねないのです。特にもともと遠くにきちんとピントが合っていた方は遠くの見え方に不満を感じ、もともと近視だった方は手元が見えないと仰る傾向があります。
一方で、手術の前からピントが中間に合っていた方は、この見え方に慣れているため、術後も中間にピントを合わせても良いことが多く、むしろ遠方にピントを合わせた場合中間距離の見え方が悪くなり、不満につながることがあります。また、活動性が低下してほとんどの時間を家の中で過ごす高齢者の方が、はっきりは見えなくてもなんとなく見えていることが重要という視点で「中間」にピントを合わせることがあり、これは非常に良い選択肢と考えています。
 
白内障手術の専門家として多くの患者さんと接する中で、「中間」にピントを合わせるとどうなるのかという質問を受ける機会はとても多いです。人によっては良い選択肢ではあるものの、「中間」という言葉の響きに引っ張られて安易に眼内レンズの度数を決定すると、かえって中途半端な見え方により眼鏡への依存度が高まってしまう可能性があるということを知っておいていただきたいです。
 

記事監修 眼科医  渡辺 貴士

日本眼科学会認定 眼科専門医
東京医科歯科大学眼科 非常勤講師

大学病院や数々の基幹病院において第一線で多数の手術を行ってきました。特に白内障手術と網膜硝子体手術を得意としています。現在も東京医科歯科大学の非常勤講師を兼任しており、大学病院での手術指導および執刀を続けています。

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