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単焦点レンズと多焦点レンズどちらがいいの?

[2024.08.31]
先生、単焦点レンズと多焦点レンズはどちらを選べば良いの?
 
白内障手術を予定した患者さんからこのように質問される機会がとても多いです。一般的には、単焦点レンズを選択する患者さんは全体の95%と言われているので、ほとんどの方が単焦点レンズを選択しています。多焦点レンズを選ばれる方は全体の5%なので、とても少ないことが分かりますね。一方で、当院は白内障手術に特化した施設であるため、多焦点眼内レンズなどの付加価値レンズでの手術を目的に遠方からいらっしゃる患者さんも多く、そのような背景から当院ではおよそ5人に1人の方が多焦点レンズを選択されます。
 
冒頭の質問の回答に戻りましょう。身も蓋もないのですが、一言では「人による」としか言いようがなく、患者さんひとりひとりの価値観や生活様式をよく確認した上で最適なレンズをご提案する必要があるため、ここでは全ての方に向けてどちらのレンズを選択するか判断するためのヒントになる情報を記載しようと思います。
先にも述べたように、全国的には大半の方が単焦点レンズを選択され、結果としてほとんどの方が満足されているため単焦点レンズの性能は十分良いことが分かります。一方で、眼鏡をなるべくかけたくない方は多焦点レンズを選択すると生活の質が上がる可能性があります。
 
大前提となるのが、多焦点レンズを選択する場合には高額な費用が生じるという点です。施設によっても差がありますが、一般的には選定療養対象のレンズであっても保険診療の手術費用+約30万円の手術費用が片眼につきかかります。国内未承認レンズであれば手術費用を含め全額が自費診療の対象になるため、さらに高額になります。これだけの費用を負担してでも付加価値レンズを選択するかどうかは、まずは個人の経済状況によるところが大きいと考えます。「保険適応で十分な性能のレンズを使用できるのであれば、それが1番良い」と考える方もいれば、「費用負担は高額になるが、今後の人生の快適さを考えれば高すぎる投資ではない」と考える方もいます。
その上で、大切なことは「お金をかければかけるほど見え方が良くなるわけではない」ということです。眼の中の状況や職業、生活習慣によって適切なレンズは異なるためです。それでは、経済的な要素を度外視した場合にどのような方が単焦点レンズに向いていて、どのような方が多焦点レンズに向いているのでしょうか。
 
単焦点レンズが向いている方として1番に考えられるのは、眼鏡をかけることに全く抵抗がない方です。もともと近視があって眼鏡が顔の一部のようになっていて、それでも嫌ではない方や、手元を見るときに老眼鏡をかけるのが嫌ではない方は、単焦点レンズの良い適応と考えます。また、芸術家の方や歯科医の方など、色の違いや細かい物の形がくっきり分かる必要がある方も単焦点レンズが向いています。多焦点レンズはコントラスト感度(くっきり見える能力)が低下したりする場合があるためです。このことから、極端に神経質な性格の方も単焦点レンズが向いていると言われています。また、黄斑に病気(加齢黄斑変性や黄斑前膜など)がある方や、高度の緑内障がある方も単焦点レンズを選択することが多いです。(現在は眼の中に病気があっても選択可能な多焦点レンズも使用されています)
 
多焦点レンズに向いている方は、先述の単焦点レンズに向いている方の裏返しになるのですが、眼鏡をかける頻度を減らしたい方です。近視が強くて困っている方ずっとコンタクトレンズを装用して生活している方とくに多焦点のコンタクトレンズを使用されている方の中で眼鏡が嫌いな方は、多焦点レンズを選択すると生活の質が著明に改善することがあります。遠視が強くて老眼がつらい方も多焦点レンズが良い適応になり得ます。焦点深度拡張型(EDOF)レンズという、コントラスト感度の低下や異常光視症(ハロー、グレア、スターバースト)などの不快な症状がほぼないレンズも選択可能で、50cmより近方がやや弱いという弱点はあるものの当然単焦点レンズよりは遙かに良いため、とくに元々遠視で老眼に悩まれていた患者さんの中には「これで手元は十分」という方もおられるほどです。「多焦点レンズならではの不快な見え方は嫌だけど、なるべく老眼鏡をかける頻度を減らしたい」という方には、(経済的な背景を考慮した上で)「単焦点レンズを入れるくらいであれば焦点深度拡張型(EDOF)レンズを選んでみてはどうですか」というお話をするようにしています。
 
上記は大まかな一般論ではありますが、実際にどのレンズを選択するべきかは非常に難しい問題で、患者さんのライフスタイルによって最適なレンズは異なり、しかもその判断は眼内レンズに精通した医師でないと行えないという複雑さがあります。皆様にとってこの記事が、後悔しないレンズ選びの一助になれば幸いです。
 

記事監修 眼科医  渡辺 貴士

日本眼科学会認定 眼科専門医
東京医科歯科大学眼科 非常勤講師

大学病院や数々の基幹病院において第一線で多数の手術を行ってきました。特に白内障手術と網膜硝子体手術を得意としています。現在も東京医科歯科大学の非常勤講師を兼任しており、大学病院での手術指導および執刀を続けています。

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