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多焦点眼内レンズの見え方に慣れるまで

[2024.09.13]
白内障手術で使用する多焦点眼内レンズは、単焦点眼内レンズと比較して構造が複雑なため、見え方に慣れるまで時間がかかります。手術をしてから見え方に慣れるまでの期間としては、早い方だと翌日には見え方が良くなったと感じる場合もありますが、遅いと数ヶ月経っても見え方に慣れない方もおられます。
 
大前提として、負担の少ない手術であるほど、術後の見え方の回復が早くなります。その上で、多焦点眼内レンズならではの特殊な見え方(ハロー・グレアなどの異常光視症やコントラスト感度低下)に慣れるまでの時間は個人差が大きいです。この見え方がどれくらい気になるかというのは、眼の状況、脳の機能や個人の感覚によるためです。特に回折型多焦点眼内レンズでは異常光視症とコントラスト感度の低下は避けられないため、そもそも術前の段階で患者さんに十分理解していただく必要があります。その点、焦点深度拡張型(EDOF)レンズについてはこのような嫌な見え方が非常に少ないため、単焦点レンズとほぼ同様の感覚で順応できる場合が多いです。
 
多焦点眼内レンズの見え方に慣れる」と一口に言っても、それは上記のように多焦点眼内レンズ特有の特殊な見え方に慣れるという意味と、遠くも手元も眼鏡無しで見えるようになるという意味があります。後者については、一般論として、近方は遠方よりも遅れて見えるようになることが多いということを知っておいてください。術後早期(数日程度)に手元が満足に見えないからといって焦る必要は無いのです。また、手元に関しては両眼加算効果といって左右の眼が補い合うことによってより良く見えるようになるため、両眼手術をした後により一層手元が見やすくなることが期待できます。焦点深度拡張型(EDOF)レンズでは、回折型多焦点眼内レンズに比べて手元30cm程度の見え方が弱いことに注意が必要です。
 
ハロー・グレアなどの異常光視症について、当然ゼロになることを期待するのは難しいですが、手術から時間が経つとそれほど気にならなくなることも多いです。しかしながら、時間が経ってもどうしても慣れずに生活の質が著しく低下してしまう方も稀におられます。そのような方において、目安として術後3ヶ月が経過してもハロー・グレアが気になって生活に支障を来すなら眼内レンズの交換を検討します。眼内レンズを交換する場合は単焦点レンズか、焦点深度拡張型(EDOF)レンズから選択することが多いです。
手元の見え方が不十分で困る場合には、弱い老眼鏡を適宜使用していただき、脳が多焦点眼内レンズを通して手元の映像を処理できるようになるのを待つのが良いでしょう。手元の見え方が十分でない場合、可能性として物を見ようとしている距離が近すぎることもあり得るため、少し距離を離して裸眼で見る練習をしてみるのも良いです。
 
多焦点眼内レンズは非常に高機能である一方で、レンズの種類によってはその特殊な見え方が生活の質をかえって下げてしまう可能性もあります。手術をしてから見え方に慣れるまでの期間も単焦点レンズよりは長いことも多いため、手術直後は神経質になりがちですが、ほとんどの方が最終的には見え方に慣れて快適な生活を送っているため、いたずらに焦らず、主治医の指示のもとで落ち着いて様子をみてくださいね。
 

記事監修 眼科医  渡辺 貴士

日本眼科学会認定 眼科専門医
東京医科歯科大学眼科 非常勤講師

大学病院や数々の基幹病院において第一線で多数の手術を行ってきました。特に白内障手術と網膜硝子体手術を得意としています。現在も東京医科歯科大学の非常勤講師を兼任しており、大学病院での手術指導および執刀を続けています。

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