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網膜剥離(裂孔原性網膜剥離)

網膜剥離とは

網膜剥離(裂孔原性網膜剥離:れっこうげんせいもうまくはくり)とは、網膜に穴(網膜裂孔)があき、この穴から眼内の水(液化した硝子体)が網膜の下に流れ込み、網膜が剥がれる病気です。

眼の中心部である黄斑の網膜が剥がれると、治療を行っても視力予後が悪くなるため、緊急での治療が必要です。

上の写真では、右眼の耳上側に生じた網膜裂孔(赤矢印)をきっかけとして、網膜が広範囲に剥離(黄色矢印)しています。

 

網膜剥離と裂孔原性網膜剥離

網膜剥離とは、網膜が網膜色素上皮細胞から剥がれた状態をさします。裂孔原性網膜剥離以外にも、中心性漿液性網脈絡膜症加齢黄斑変性など様々な疾患により網膜剥離は生じます。

ただ、一般的に「網膜剥離」という言葉は「裂孔原性網膜剥離」と同様の意味で使用されていることが多く、網膜剥離を生じる疾患の中で裂孔原性網膜剥離が最も緊急性が高いものになります。

このページにおいても「網膜剥離=裂孔原性網膜剥離」として言葉を使用しています。

 

網膜剥離の症状

網膜裂孔が生じた際に飛蚊症(黒い点が動いて見える)を自覚することがあります。多くの方が日常的に感じている生理的な飛蚊症と異なり、ある日突然強い症状として自覚されることが多いです。

その後、網膜剥離の範囲が拡大すると視野の一部が見えにくくなります。網膜剥離により片眼の視野が欠けていても、もう片眼で補って見ることができるため、視野欠損の範囲が狭い場合には自覚症状に乏しいことがあります。

さらに網膜剥離が進行し、眼の中心である黄斑部の網膜が剥がれると、急激な視力低下にいたります。

 

網膜剥離の原因

1. 後部硝子体剥離

50歳代以降の網膜剥離の原因の多くは後部硝子体剥離です。後部硝子体剥離とは、硝子体(ゼリー状の組織)が加齢性の変化で液化して収縮する際に、もともと接している網膜から剥がれる現象です。

一般的には硝子体は網膜から綺麗に剥がれますが、網膜との癒着が強い場合には網膜裂孔を生じることになります。網膜裂孔が形成された直後で網膜剥離に進展していなければ、レーザ治療で対応するとができます。

2. 外傷

外傷により、網膜に直接強い刺激が加わることで網膜裂孔が形成されます。外傷後は網膜剥離だけではなく、外傷性白内障、硝子体出血などを伴うこともあり治療の際には注意を要します。

3. 強度近視

強度近視では、眼軸が長くなる(目が前後に引き伸ばされる)ことで網膜が薄くなり、網膜裂孔が生じやすくなります。

周辺部の網膜において格子状変性と呼ばれる網膜の構造が脆弱な部位が存在することが多く、格子状変性部においては萎縮円孔や網膜裂孔が形成されます。

 

網膜剥離の検査

網膜の断面図をみるOCT検査により、黄斑部の網膜が剥がれているかを確認します。黄斑部の網膜が剥がれているかどうかは、術後の視機能の回復の目安になるため重要です。

一度黄斑の網膜が剥がれると、手術で網膜を復位させることができても歪んで見える症状(変視症)が残ります。

上段の写真は、剥がれた網膜(赤矢印)が黄斑(黄色矢印)を含んでいるのがわかります。カラー写真の青矢印で示した部分は剥がれて浮き上がった網膜を示しています。

下段の写真は、網膜剥離が進行していますが、黄斑の網膜は保たれています。この時期に手術で網膜を復位させることができれば、術後の視機能の回復は比較的良好です。上方から剥がれる網膜(青矢印)は、重力の影響で急速に網膜剥離が進行するため、緊急性が高い状態です。

 

網膜剥離の治療

網膜剥離の手術には、硝子体手術強膜内陥術(強膜バックリング術)という2つの方法があり、網膜剥離の状態により手術の方法を選択します。

当院で行う全ての手術は日帰り手術なので、術後はご自宅もしくはホテルなどで安静にしていただく必要があります。

 

硝子体手術

50歳代以降の網膜剥離の多くの原因は後部硝子体剥離です。もともと網膜に接している硝子体は、加齢とともに液化して収縮する際に網膜から剥がれます。硝子体と網膜との癒着が強い場合には、硝子体は網膜から綺麗に剥がれることができず、網膜に裂孔が形成されることになります。

網膜剥離は硝子体と網膜の異常な癒着が原因であるため、硝子体手術により眼内の硝子体を全て取り除くことで、網膜を牽引する力を取り除きます。

硝子体手術では、網膜下に貯留した水を除去した上で、網膜裂孔から新たな水が入らないように裂孔周囲の網膜をレーザーにより焼き固めます。眼内に医療用ガスや空気を充填して、網膜が再び剥がれることを予防して手術を終了します(眼内に水と空気がある場合に、水よりも軽い空気が上方に浮き上がろうとする力を利用して網膜を押さえつけます)。

手術後には眼内に注入したガスを適切な位置の網膜に押し当てるために、一定期間うつ伏せなどの姿勢を取っていただくことが必要です。この術後の体位維持が網膜剥離の治療においては非常に重要です。

▶︎硝子体手術について

 

強膜内陥術

20歳代前後の網膜剥離では、もともと網膜の構造に脆弱な部分(格子状変性)があり、そこに穴(萎縮円孔)が形成されることで網膜剥離に進展します。50歳代以降の場合とは異なり、硝子体が液化して収縮するような変化が原因ではないので、萎縮円孔には水が流れこみにくく一般的に病態の進行は緩徐です。

眼の外側からスポンジ状の物質を押し当てることで、剥離して浮いている網膜を接着させます。また、網膜の穴から再び新たな水が流れ込まないように、眼の外側から冷凍凝固という方法を用いて穴の周囲の網膜を焼き固めます。

 

網膜剥離の術後合併症

再剥離

一般的な硝子体手術の合併症に加えて、網膜剥離は初回の手術が成功しても、一定の確率で再発(再剥離)することがあります。

上記の症例では、初診時は右眼の鼻上側の網膜裂孔(青矢印)を原因とした網膜剥離(黄色矢印)を認めました。初回の硝子体手術では、網膜を復位させた後に、眼内に医療用ガスを入れて手術を終了しました。

術後経過は良好でしたが、眼内のガス(白矢印)が少なくなってきた頃に、鼻下側に新たな網膜裂孔(青矢印)が形成され、下方からの網膜剥離(黄色矢印)が生じました。初回の網膜剥離を引き起こした網膜裂孔の周囲には、レーザー治療後の瘢痕が淡い白色の領域として確認され、初回の網膜裂孔を原因とする網膜剥離は治癒しているのがわかります。

黄斑パッカー

網膜剥離の手術後には一定の確率で網膜上に異常な膜が形成されることがあり、黄斑パッカーと呼ばれます。

網膜に穴があいた際に眼内に網膜色素上皮細胞が散布され、この細胞が黄斑部の網膜に付着し、細胞増殖することで黄斑パッカーが形成されます。黄斑パッカーは通常の黄斑前膜と比べて、急速に進行し視力障害も強いことがあります。

上記の症例では、網膜剥離に対して硝子体手術を行った約1か月後の網膜は正常範囲内でしたが、約2か月後には黄斑パッカーが出現し、著しく網膜の形がゆがめられています。

 

受診するべきタイミング

ある日突然飛蚊症を自覚した際に、それが生理的な飛蚊症なのか、もしくは網膜剥離の初期症状としての飛蚊症なのかをご自身で確認する方法はありません。

網膜剥離であった場合には、術後により良い視機能を保つためには、早期の診断と治療が重要です。

50-60歳代で発症することが多い病気であるため、仕事を理由に受診のタイミングが遅れてしまう場合も見受けられますが、気になる症状がある場合にはなるべく早い段階での受診をご検討ください。

 

よくある質問

術後はうつ伏せが必要ですか?

「網膜剥離の術後は1週間ずっとうつ伏せになる必要があり辛い」という話を聞いたことがある方もいらっしゃるかと思います。術後1週間のうつ伏せは多くの医療機関で行われていますが、うつ伏せで動けない状態はつらく苦痛を伴います。
当院では、網膜剥離の状態によっては術後早期からうつ伏せ以外の体位に変更していただくことで、患者様の術後の負担を軽減するだけでなく、より網膜剥離の治療に有利な環境を作ることを目指しています。詳しくは『網膜剥離の手術後はうつ伏せが必要?』をご覧ください。

遠方からの受診なのですが、手術翌日までうつ伏せになるためにホテルに宿泊した方がよいですか?

術直後よりうつ伏せになり安静にしていただく必要があるので、遠方からお越しの場合には近隣のホテルに宿泊することをおすすめします。近隣ホテルの一覧はこちらをご覧ください。
ご家族が車で送迎可能な場合や、タクシーでの移動をご希望の方は、ご自宅で安静になられる形でも構いません。

術後はどの程度仕事を休む必要がありますか?

術後は確実な網膜復位のために、最低でも術後1-2週間は安静にしていただく必要があります。また、術後は一定の確率で再び網膜剥離を生じて追加の処置が必要になる可能性もあり、安静期間が長引く場合があります。

術後は飛行機に乗れないのですか?

眼内のガスが消失するまでは飛行機への搭乗は禁止です。網膜剥離の手術では眼内に医療用ガスや空気を入れた状態で手術を終了します。飛行機への搭乗や山などの標高が高いところでは、眼内に入れたガスが膨張し著しく眼圧が上昇するため非常に危険です。
網膜剥離の手術の際に眼内入れる医療用ガスやシリコンオイルなどについては、『硝子体手術で使用するタンポナーデ物質』で詳しく解説しています。

 

記事監修 眼科医  渡辺 貴士

日本眼科学会認定 眼科専門医
東京医科歯科大学眼科 非常勤講師

大学病院や数々の基幹病院において第一線で多数の手術を行ってきました。特に白内障手術と網膜硝子体手術を得意としています。現在も東京医科歯科大学の非常勤講師を兼任しており、大学病院での手術指導および執刀を続けています。

▶︎医師紹介

 

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